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連載故郷の場所(その14) 「京都でおこなう支援のかたち」

 「神主さんと京の社を巡ろうの会」(京都)は、平成26年2月に活動を開始した。
 同会では、東日本大震災で被災し、福島県をはじめとする東日本から京都府へ避難している人たちに対する支援活動を行っている。
 代表の金田伊代さん(京都大学大学院、神職)によると、活動の柱は神職と京都府内の社寺をまわり、訪問先の儀礼に参加したり、神職や僧侶のお話を聴く、というものだ。
「活動の目的ですが、単なる観光としての社寺巡りではなく、避難者の心のケアです。京都の社寺を巡ることで、京都や日本のよいところを見直し、こちらへ避難している方々が前向きに生きていくことにつなげられればという思いをもって活動しています」
 金田さんは平成23年9月21日に実施された神道青年全国協議会の「東日本大震災」復興支援ボランティア活動(第二次・岩手県)に参加している。
 ただし、「お金と時間をかけて被災地に行くには限界があります。そんなとき、京都府内に避難している人たちが大勢いることを知りました」
 京都で、避難者支援を個人的に始めたのは翌月(10月)ころだという。当時、京都には1000人を超す人たちが避難していたとされる(平成28年秋現在は約300世帯弱)。
「夫を残して、母子避難している人たちが大多数です。慣れない京都で苦労することも多いはず。同じ年代の同じ女性ですから、何かできないかと考えました」
 宗教者としての使命感もあったという。当初は、個人的な活動として始めた。奉職していた神社の行事に来てもらったり、神社の部屋を借りて、母親たちと交流する集まりを開いていた。

■最後に支えてくれるのは神様
 金田さんは、もともとは埼玉県所沢市の出身。公務員の家庭に生まれた。
 大学では医療を勉強していたが、人の生死や日本人としてのアイデンティティについて悩んでいた。また、子どもの頃から海外に憧れていたが、外国に行くのならば日本を知らなければ…、という思いから、神楽舞の稽古場に通い始めた。そして、計らずも金田さんの世界が大きく変わった。
「『心をこめて舞うと神様が喜んでくださる』というような、講師の先生のお話のひとつひとつが新鮮でした。まったく知らなかった世界でした」
 講師の立ち居振る舞いや話から、随神(かんながら)に生きる人々の世界を体感した。
「『神道は日本の大本』であると知ったのです」
 この経験ののちに、悩みのひとつであった生死について「医療ではなく、宗教の領域だ」と得心した。それで皇學館大學へ入り直し、神職の資格を取った。22年4月、縁があって京都市内の神社へ奉職した。その翌年、震災が起きた。
「人事を超えた出来事に遭遇したら、最後に支えてくれるのは神様。苦しみにある人と神様をつなぐことができるのが神職だと思います」
 平成25年4月には、京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程に入学。生死をめぐる諸問題や、ターミナルケアを研究している。将来は、神職として終末期医療の現場に関わりたいという希望がある。
「人は必ず死を迎えます。それならば、幸せに亡くなるお手伝いがしたいのです」。

■■社寺では心が穏やかになる
 母親たちと交流する活動を通して、気づきがあった。
「避難者は心の奥に悩みや悲しみ、怒りを根底に抱えている人が多いのです。しかし、神社の祭典に参列した後には、晴れやかな表情や笑顔が見られました」
 祈りの力、神社の持つ場の力、清浄な神域の空気による感化があった。
 この経験がベースにあり、それまで個人的な活動を、現在の「巡ろうの会」へと発展させた。現在は、年に数回、避難している人たちとともに、京都府内のどこかの社寺を巡っている。
 金田さんによると、京都へ避難している若い母親たちは、あまり社寺について知識を持ち合わせていないという。
 しかし、彼女たちが住む京都は、日本では稀有な宗教都市だ。
「せっかく京都にいるのだから、こんなに素晴らしい世界を是非知ってほしいです」
 金田さんの取り組みは、神職ならではの「遠隔支援」の可能性を示していると思われる。
 
ライター 太田宏人
(平成28年10月8日掲載)

季刊誌『皇室』の連載記事「被災地神社復興ルポ」及び本記事「故郷の場所-被災地の神社をめぐる情景」の執筆者であるフリーライターの太田宏人氏(48)は、平成30年5月15日に逝去されました。





金田伊代氏


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