読みもの

連載 方言「知らんけどね」

第11回「ばりかく」名古屋弁
令和7年11月6日

第11回「ばりかく」名古屋弁

「中学校の体育の授業でバスケしたとき、気の強い女子に手をばりかかれてさぁ~」と思い出話をする私に、「ばりかかれて??」と怪訝そうな家人(山形県出身)。このとき私は、半世紀と少し生きてきて初めて、「ばりかく」が名古屋弁だと知ったのだ。この話を家族LINEで共有したところ、全員が「まじで? 標準語だと思ってた!」と、思い思いのびっくりスタンプを送ってきた。わりと最近のことである。

「ばりかく」は、標準語に訳せば、強く引っ掻くこと。でも、それじゃぜんぜん足りない。爪を立てて、バリバリッと勢いよく引っ掻かなくては、「ばりかく」ことにならない。なので、ばりかかれた方は、流血やみみず腫れは必至。「ばりかく」という方言に、話者が共通認識として思い浮かべるのは、その痛みだ。ゆえに、穏やかでないシーンに使われることも多い。

「猫にばりかかれて傷だらけ」「あいつに殴られたもんで、ばりかいたった(あいつに殴られたので、ばりかいてやった)」「蚊に刺されたとこ、ばりかきすぎて血ぃ出たわ」など。

このヒリヒリ感、伝わるだろうか?

ところで、この言葉の由来についてはどうだろう? 博多弁で言う「ばり」は「ばりうまい(すごくうまい)」などと強調の意味で使われるので、「ばり」+「かく」で「めちゃくちゃにかく」になったとも思われているようだが、名古屋弁では強調語は「でら」であって(「どえりゃー」は実際にはあんまり使わない)「ばり」は使わない。やっぱり、「バリバリと音を立てるような勢いでかく」が近いんではないかと思っている。

(文/中尾千穂)

※ここでは名古屋弁としていますが、東海地方はじめ他地域でも同じ方言が使用されている可能性があります。
※前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100738
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