読みもの

連載 方言「知らんけどね」

第27回「ぶりやる」熊本弁
令和8年6月4日

第27回「ぶりやる」熊本弁
 前回、方言の「現在完了形」とでもいうべき「つっぽげる」「ばっちらかす」などを紹介した。それぞれ「穴が空いてしまっている」「散らかし放題になっている」を表すことばだった。あるいは「ひっと出る」(出てしまっている)という方言も紹介した。それぞれ接頭語として「つっ」や「ばっ」「ひっと」が付くことによって、その瞬間や状態を表す言葉となっていた。
 その発展形というべき方言もある。それが今回、タイトルに挙げた「ぶりやる」である。これは「振り」「やる」で、基本的には「放り投げる」意味だ。しかし、そこには前回も書いたように強調があり、単に「放り投げる」だけではなく、ぶっきらぼうに投げる、といった意味が含まれているのだ。だから、放り投げるのは放り投げるのだが、この表現を使う時には相手への非難めいた感情が入ってくるのである。
 それは標準語を交えていうと「どうしてあなたは、そうやって、ぶりやるの(放り投げるの)!」という使い方だ。これを熊本弁で言うとこうなる。「なんであんたは、そぎゃんぶりやっとね!」。もっと高度な熊本弁だと「そぎゃん、ぶりやらんちゃよかろうもん!」(そんなに放り投げなくてもいいでしょうに)になる。
 つまり、「振り」「やる」の「振り(ぶり)」が「ぶっきらぼう」な動きを醸し出しており、単に投げるだけでなく、それをどこかに打ち捨てる感じが出てくる。そして、「放置する」「置いてくる」「追い出す」といった意味にもなるのだ。だから、こういう使い方も出てくる。こちらも先に方言を交えた標準語で例を示そう。
「あの二人は喧嘩して、家までクルマで送っていけばいいものを、バス停で彼女を“ぶりやって”きたんだって」(あん二人は喧嘩してたい、家までクルマで送っていけばよかとに、彼女ば、バス停でぶりやんなはったて)。
 しかし、言葉に非難が含まれていても、ここにも、どこか滑稽な感じが漂っている。筆者は実際に上記の「ぶりやる」の使用法を聞いて、大いに笑ったものである。
「はねくりやる」という言葉もある。これは「跳ねる」「来る」「やる」の3つの言葉で成り立っている。つまり、あっちこっちに跳ねている状態を言う言葉だ。以下は、大事な会議があるというのに髪の手入れもせずに来た人のことを指して陰で物を言う図である。
「今日は大事な日というのに、あん人の髪ははねくりやっとるね」
 どれだけ乱れていたのだろうか? 標準語の翻訳は不要だろう。
文/伊豆野 誠
前回は https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100874


 
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