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ニッポン超絶技巧――職人さん探訪

第2回 左官の匠―その17
令和8年8月12日
ついに黒ノロ掛けの作業が始まった
 13時半頃、いよいよ黒ノロ掛けの作業が始まりました。「黒ノロ掛け」という言葉は初めて聞きましたが、作業内容や目的を知ると確かに「塗る」よりも「掛ける」のほうが、仕上げる感じが出ていて、ふさわしいようにも思えます。
 長谷さんが壁に新聞紙を当てて、壁の状態を確認しました。新聞紙が湿ることもなく、ちょうどいい具合のようです。実は当初は13時前から始める予定でしたが、まだ白ノロの水分が多いとのことで小一時間ほど待っていたのです。



 長谷さんが鏝を当てて黒ノロを掛けていきます。先ほどまでとは違う鏝のようです。
「これはテフロンの鏝です。昔はなかった素材で、プラスチックに近い。摩擦係数が非常に低いので、スーッと塗れるし、ツルツルに磨けば壁を傷つけることもありません」



 ほかの職人さんたちも加わり、妻壁に黒ノロが塗られていきます。まず全体に塗っていき、端や細かい部分を塗っています。
「1回目の黒ノロは完全に乾いてもいいんです。2回目からは表面を整えていく“押さえ”に入り、2回目で色が整わなかったら3回目、4回目と塗っていきます」(長谷さん)
 黒ノロも白ノロと同じように複数回塗っていくわけですね。



左官が使うミンクとは?
 13時45分頃から2回目の塗りが始まりました。2回目を塗り終えたところで、職人さんたちが大きな毛皮の手袋のようなものを手にしました。
「これはミンクです。これで軽く磨いて表面を整えていきます」(長谷さん)



 後で調べたところ、左官が使う「ミンク」とは、土壁や漆喰などの仕上げ(磨き)や、表面に浮いた余分な水分を拭き取る際に使われる専用の道具のことで、特に鏡面仕上げの際は必需品とのことでした。「質感が毛皮のミンクに似ているから、この名前がついたのかな」と思っていたら、素材は本物のミンクでした……。びっくりしました。
 見ていると、ミンクを使っている人もいれば鏝の人もいます。黒ノロの状態によって使いわけているようです。

 14時30分頃から黒ノロ掛けの3回目が始まりました。今回は3回目を塗るそばから鏝で押さえ、ミンクで磨いていきます。フェルトで磨いている職人もいます。長谷さんが若い古川さんになにかアドバイスしながら作業しています。
 ふと気がつくと妻壁が光るようになっていました。2回目の頃まではまだ艶のないマットな感じだったのが、いつの間にか職人さんの手や服の色が反射して映るようになっています。



 15時15分頃に休憩に入りました。長谷さんが言うには、「こうやって乾かす時間が大事。ひたすら磨き続けても、もろい部分が剥がれる恐れもあるので、壁を休ませた後で磨いたほうが効果的なんです。手を入れれば入れるほど光っていきます」
 16時前から押さえの作業が再開されました。少し薄暗くなってきたので、ベテランの一人はヘッドライトを着けていました。
 そして16時15分にこの日の黒ノロ掛けの作業は終了しました。妻壁がすぐ上の鉢巻き部分と同じようにツヤツヤと光っていて、まさにピアノのようです。



(次回:8月19日予定 取材・文/岡田尚子)

その16(前回)https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100906
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