読みもの
第33回「いんでこーわい」伊予弁
前回、友人の「This is 伊予弁」を紹介しましたが、今回は私の「This is 伊予弁」、「いんでこーわい」を取り上げます。早く紹介したいと思っていましたが、説明するのが難しそうで、なかなか書けませんでした。
この言葉、他の地方の方には文字で見ても耳で聞いても、どんな意味なのかさっぱりわからないと思いますが、「じゃあ、私は帰るね」という意味なんです。
三省堂辞書ウェブ編集部による「ことばの壺」によれば、「いんでこーわい」は、「いんで(往ぬ・帰る)」+「こー(来よう)」+「わい(終助詞)」で構成されているそうです。「~わい」には特別な意味はなく、文末にあって感情を添える、軽い念押しなどを表現しています。特別な意味はなくても、「わい」は必ずセットです。「いんでこー」だけで使う人はいません。
「いぬる」は漢字で書くと、「去ぬ・往ぬ」となり、「立ち去る。行ってしまう。過ぎ去る。死ぬ。亡くなる」というような意味を持つ古語です。今では標準語としては使われなくなりましたが、『万葉集』や『伊勢物語』など多数の書物に登場します。たとえば『万葉集』では、「相見ては千年(ちとせ)やいぬる否をかも」(会ってから千年も過ぎ去ったであろうか、いや違うであろうか)と詠まれています。
都や都に近い地域では、その後使われなくなった言葉が、ちょっと離れた愛媛県ではいまだに使われているということですね。
そして、この「いんでこーわい」は、「いんで(去る・帰る)」+「こー(来る)」なので、「帰ってから、もう一度来る」ように思われがちですが、そんなことはありません。帰ったままで戻ってきません。
具体的には次のように用います。
友人同士の集まりにて
友人1「お、もうこんな時間か。俺、そろそろ帰るわー」
その他の友人「俺らはもうちょっと残るわー」
友人1「わかった。ほな(そしたら)、いんでこーわい」
友人一同「気ぃつけて帰れよ。また来週な~」
「いんでこーわい」ではなく「帰ってこーわい」という言い方もありますが、使い方や意味は全く同じです。愛媛県に来て、「いんでこーわい」と言われても、戻ってくるわけではないので、ご注意くださいね。
文/おかだなおこ
前回 https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100949