読みもの

第34回「まっぽし」熊本弁
この連載の第31回で「なんとんつくれん」を紹介した。それは「どうにもよく分からない」というニュアンスを表す言葉だった。そして、この方言が、どうしてそういう意味になるのか、よく分からないとも書いたが、今回は、そのような熊本弁を紹介したい。
まずは「まっぽし」である。これは、九州全般で使われるが、地域によって意味が若干異なるようだ。熊本の場合は「まっぽしさん」と呼ばれる人がいた。これは霊媒師や霊能者のことで、その人のことをなんでも言い当てる人のことを言う。スピリチュアリストの江原啓之みたいな人と、言えばイメージしやすいだろうか。
つまり、「まっぽし」とは「図星」「大当たり」のことで、日常でも以下のような使い方をする。
「今、妙なこつば考えとったろ?」(今、変なことを考えていたでしょう?)
「よー、分かったね! まっぽしたい」(よく分かったね、図星だよ)
それでは、なぜ、「まっぽし」がこのような意味になるのかだが、地域によっては「まっ正面」「まとも」の意味で使われるというから、それが高じて?「図星」「大当たり」の意味になったのかもしれない。
これを、先の「まっぽしさん」を交えて言うと以下のようになる。
「あそこのまっぽしさんは、もー、なんでんかんでん、まっぽしてたい」
??? おそらく、注意して聞いておかないと何がなんだか意味が分からないだろう。標準語にすると以下のようになる。
「あそこの『まっぽしさん』は、もう、何でもかんでもお見通しで将来のことまで分かるそうだよ」
ここでの「なんでんかんでん」も方言だが、店名に使われたりして、今や全国区の言葉かもしれない。標準語の翻訳に書いた通り「何でもかんでも」の意味である。これも九州全域での方言らしいが、熊本では「なんでん」だけでもよく使われる。例えば、こんな具合だ。
「なんば食べたか?」(何を食べたい?)
「なんでんよか」(何でもいい)
これなら意味は類推できるだろうが、以下になるとどうだろうか?
「あん人はまた遅刻して来なはったて」(あの人はまた遅刻されたそうだよ)
「なんでん!」(まったくどうしたものか)
つまり、「何でもかんでも」が高じて「どうして、何ごとにおいても、こうなるんだろう。なんで?」という呆れた感や警告の意味が入ってくるのである。
ところで、以下の会話の「つ」の意味が分かる人はどれくらいいるだろうか? 筆者が東京に出てきて、理解されなかった言葉はいくつかあるが、これもそうである。
「さっき切った傷のところに、もう、“つ”が出来てきたよ」「……?」
正解は……「かさぶた」でした。
文/伊豆野 誠
前回は https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100950