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百味ひゃくみの御食おんじき

談山神社・嘉吉祭かきつさいの特殊神饌<6>
令和8年9月29日

 奈良県桜井市・談山神社の「嘉吉祭」で供えられる「百味の御食」は、古式ゆかしい独特の形式をもつ特殊神饌(しんせん)。約30種類からなる神饌は、毎年、神職や氏子さんの奉仕により調製・準備されています。例年、お祭りを前にした10月第2水曜日~金曜日の3日間には、奉仕者一同が社務所に集まり「御供(ごく)盛り」と称する調製が行われます。前回までは令和7年の「御供盛り」や「宵宮祭(よいみやさい)」についてお伝えしてきましたが、今回は同年10月12日の嘉吉祭当日の準備の模様をお伝えします。

「大職冠」は大食漢!

 嘉吉祭当日の朝8時ごろ、嘉吉祭に奉仕する氏子さんたちが、準備のため社務所へ集まってきました。

 本年度のお祭りの中心的な役割を担う「本当屋(ほんとうや)」を務める六條庸行(ろくじょう・のぶゆき)さんは、今朝自宅で炊いたばかりの糯米(もちごめ)2升分を、ビニール袋3つに入れて持参しました。


 まだ温かい糯米を、先日の御供盛りでつくった「鎌足さんのお弁当箱」と呼ばれる箱に詰めて、飯御供(いごく)を調(ととの)えます。箱の片側の蓋を開けて糯米を入れ、蓋を閉めて注連縄(しめなわ)を結び、箱の入口には稲穂を飾って、飯御供の完成。中身を詰めた飯御供の重さは5キロほどにもなるそう。

 談山神社の御祭神である藤原鎌足公は、当時の冠位の最上位「大職冠(たいしょくかん)」を授けられた史上唯一の人物。それゆえ「大職冠」と尊称される鎌足公ですが、このお弁当からすると、どうやら「大食漢」でもあったようです。

可愛らしいトッピング

 米や野菜・果物・木の実などの御供も、当日の朝に仕上げをします。お盆に用意されているのは、大根、かぶ、茄子、オクラ、さつま芋など、いろいろな種類の小さな野菜たち(画面一番上の写真)。これは御供に飾るトッピング用です。昔はカメなどの形に象(かたど)った小さな団子を飾っていましたが、つくるのに手間がかかるため、小さな野菜を飾ることになったそう。当日仕上げをするのは、30台ある御供のうち、すでに上に酸漿(ほおずき)が飾られている毛御供(けごく)4台を除く26台。野菜を串に刺して、御供に飾ります。


 さて、問題はどの御供にどの野菜をトッピングするのか? 色合わせや向き、サイズを考えて、ああでもない、こうでもない、と氏子さんたちで話し合いながら決めていきます。細長い大根を「ハサミで切ったらどう?」と誰かが言えば、「いやいや、このままのほうが面白いよね」と別の誰かが言います。小さな柑橘はあえて葉っぱのついたものを使ったり、赤く色づいた獅子唐(ししとう)をアクセントにしたり。さつま芋は固いので、キリで穴を開けてから串に刺します。

 みんなで楽しみながら、ユニークなカタチの御供を、いっそう可愛らしい姿に仕上げていきます。

季節の彩りを添える楓の枝

 この朝、社務所広間には、神社の背後に広がる談山(かたらいやま)で採ってきた楓の枝が用意されていました。青葉と紅葉の楓の枝を2本ずつ計4本をお供えするのですが、近年は紅葉が遅く、紅葉といっても枝先のほうがちょっと色づいたもの。

 楓の枝には、先日の御供盛りで作った和紙と竹細工の「トンボ」と呼ばれる団扇(うちわ)と扇を飾ります。緑葉の枝には赤いトンボと扇、紅葉の枝には緑のトンボと扇を麻緒(あさお=麻の紐)で結びつけます。食べ物ではありませんが、「百味の御食」に風雅な季節の彩りを添えるお供えものです。トンボと扇は楓の種子を表し、子孫繁栄を願う意味があるともいわれます。


 社務所で準備を調えた神饌は、氏子さんたちが順次、権殿(ごんでん)へ運び込みます。権殿の前には急な石段があり、何度も上り下りするので大変です。権殿は重要文化財なので、靴を敷物の上に脱いで上がり、殿内に設けられた棚に「百味の御食」をお供えする順番どおりに並べていきます。


「百味の御食」をお供えする順番は、次のとおり。

①無垢人(むくびと) ②鶏頭(けいとう)花 ③菊花 ④神盃 ⑤神酒 ⑥神箸(かみばし) ⑦米御供(こめごく) ⑧毛御供(けごく)<白> ⑨毛御供<黒> ⑩毛御供<赤> ⑪栗 ⑫むかご ⑬樫(椎)の実 ⑭榧(かや)の実 ⑮枝豆 ⑯梨(古代梨) ⑰柿(豆柿) ⑱姫林檎 ⑲すだち ⑳銀杏(ぎんなん) ㉑棗(なつめ) ㉒椎茸 ㉓酸漿(ほおずき) ㉔子ヅテ(ねづて) ㉕倉餅(くらもち) ㉖飯御供(いごく) ㉗神饌(鮎、鯛、昆布など一般的なもの5台) ㉘楓枝

 以上は、毎年決まっているものですが、この他にも令和7年は金柑(きんかん)、じゃがいも、さつま芋の御供が並びました。

 御供盛りの際には見られなかったお供えものもあります。トップを飾る①無垢人や、続く②鶏頭花③菊花は当日のお目見えです。

 無垢人は「青農(せいのう)」とも呼ばれます。室町時代に制作された人形で、談山神社に2体1対があり、嘉吉祭ではそのうち1体が供えられます。「百味の御食」で最初に供えられるのは、露払いの意味合いからといわれますが、もともとは生身の人間による舞(まい)が奉納されたともいわれます。なお、同じく奈良県の春日大社・若宮の祭礼「おん祭り」では、細男(せいのお)の舞が奉納されています。

 赤い鶏頭の花は大きくて見事なもので、嘉吉祭のために近隣の村の人に育ててもらっているそう。大きな花器に活けられた姿は、一輪でもぱっと華やか。黄色と白の小ぶりな菊は、細い花器に活けられます。


 御供盛りで調製された「倉餅」には、専用の箱が添えられています。箱書(はこがき)を見ると、明治40年10月に氏子の六條さんの家から奉納されたもののようです。

 また、この日お目見えした「子ヅテ」は、小さな鏡餅のような形のお団子で、米粉を蒸してつくられます。明治以降途絶えていたものを、昭和期に復活した神饌です。


 こうして権殿に「百味の御食」がずらりと並べられ、お祭りの準備が整いました。次回は、嘉吉祭で神饌がお供えされる模様をお伝えします。


[取材・文/中尾千穂]

百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<5>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<3>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<2>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<1>は↓
https://www.nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100948

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