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百味ひゃくみの御食おんじき

談山神社・嘉吉祭かきつさいの特殊神饌<最終回>
令和8年9月30日


 奈良県桜井市・談山神社の「嘉吉祭」で供えられる「百味の御食」は、古式ゆかしい独特の形式をもつ特殊神饌(しんせん)。約30種類からなる神饌は、毎年、神職や氏子さんの奉仕により調製・準備されています。前回までは令和7年の調製や準備の様子をお伝えしてきましたが、最終回では、同年10月12日の嘉吉祭での献饌(けんせん)の模様をお伝えします。

参列者も参加、約150メートルを伝供(でんく)

 嘉吉祭当日、午前9時を過ぎると、参列の方々が続々と談山神社にやってきました。本殿に続く長くて急な石段を、礼服姿で息を切らせてのぼってきます。嘉吉祭の拝観は自由で、本殿の手前にある拝殿に多くの拝観者が集まってきました。


 午前10時前、宮司以下神職と、氏子のなかでも中心的な役割を担う「当屋(とうや)」の3名は、本殿前で手水(てみず)を取ると、権殿(ごんでん)へ進みます。一同は殿内の内陣(ないじん)に上がり、お祓いを受けます。


 続いて、権殿の棚に並べられた神饌「百味の御食」もお祓いします(画面一番上の画像)。お祓いが済むと、一同は本殿へ引き返し、本殿前の「石の間」と呼ばれる祭場(さいじょう)へ進み、神職は本殿に向かって左、当屋は右の席に向かい合って着座しました。神職の背後には参列者、当屋の背後には氏子さん方が席に着いています。

 祭典が始まると、金子清作宮司が本殿前に進み出て一拝。続いて、神職が「ヲー」と声で発する警蹕(けいひつ)がかかり、ご神前の御簾(みす)が巻き上げられました。その後は、いよいよ神様に神饌を献じる「献饌(けんせん)」です。神職と氏子のほか、参列者約20名も全員席を立ち、権殿から本殿まで150メートルほどの間に、だいたい等間隔になるようにスタンバイします。


 権殿では、氏子さんたちが「百味の御食」を決められた順番で扉から出し、外にいる奉仕者に手渡していきます(上画像1)。順番は前回ご紹介したとおり、露払い役の無垢人(むくびと)に始まり、美しく盛りつけられた米御供(こめごく)や毛御供(けごく)、野菜・果物・木の実の御供などが、続々と権殿から出されていきます。受け取った人は、次に待つ人へ手渡し、次の人はさらに次の人に手渡し、バトンリレーのように伝えていきます(上画像2)。このような献饌の方法は伝供(でんく)と呼ばれますが、これほどの距離を、これほどの人数で行う伝供は、他にないでしょう。本殿の手前にある階段では、より慎重に、みなさん心ひとつに連携プレーで神饌を伝えます(上画像3)。階段を越えると、赤い扉から本殿に入ります(上画像4)。

 この日は朝から曇り空で、途中で雨が降り出す場面も。御供にほどこされた色粉が落ちてしまわないよう、傘が差しかけられます。額に汗して神饌を丁重に受け渡しする人たちには、真剣な面持ちのなかにも楽しそうな表情が浮かんでいます。「百味の御食」が次々に受け渡されていくさまは、まるで神饌が行進しているようです。


 本殿の階下から階上までは、当屋3名が神饌を伝供します。本殿の木階(もっかい)は急で幅が狭いので、注意深く動かなければなりません。当屋から階上にいる神職に神饌が手渡されると、神職が本殿内陣に神饌をお供えします。本殿内では、神職は正座の状態から膝をついたまま、つま先を立てて前後に移動する膝行(しっこう)・膝退(しったい)で動きます。

「百味の御食」がすっかり本殿内陣に献じられるまで、30分ほどかかったでしょうか。献饌が済むと、宮司の奉幣(ほうへい)がありました。大きな御幣(ごへい)が、ここでもバトンリレーのように、当屋から神職へ、さらに宮司へと手渡しされます。宮司は本殿内で御幣を左右左と振った後、内陣中央にこれを献じました。本殿の奥は暗くてよく見えないのですが、まっすぐ立てられた白い御幣と、その前に「鎌足さんのお弁当箱」こと飯御供(いごく)が献じられているのが、遠目にも確認できます。


 その後、宮司が祝詞(のりと)を奏上。氏子らが山へ入って神饌の材料を採り、心を込めて調製し、お供えしたことを神様に申し上げました。

祭典後は拝殿に

 玉串(たまぐし)拝礼の後は、撤饌(てっせん)です。お供えた神饌を次々に本殿から下ろし、拝殿に用意した案(あん=棚)の上に並べていきます。


 拝殿で嘉吉祭の様子を見ていた拝観者たちは、目の前に並べられていく神饌を興味深げに眺め、スマホで撮影しています。お祭りの後、1週間ほどの間はこうして「百味の御食」を拝殿に安置し、拝観者に見てもらうのだそう。唯一無二の素晴らしいお供えを、こんなに間近で見られるのは嬉しいことです。


 ただし、「百味の御食」のうち「倉餅」は、祭典終了後に社務所の台所へ運び込まれます。

 男性3人がかりで押切(おしきり)を使って切りますが、倉餅はかなり固くて力が要る様子。20個ほどに四角く切り、四角く切った昆布を敷いて、紙で包みます。切り分けた倉餅は、飯御供の「鎌足さんのお弁当箱」から取り出した糯米(もちごめ)と一緒に、氏子さん方や神饌の材料を頂いた家へお下がりとしてお分けするそう。

 祭典を終えた後には、談山神社向かいに建つ多武峰観光ホテルにて、直会(なおらい)が開かれました。

 会場の大きな窓から見える談山神社・十三重塔を背に、令和7年の本当屋を務めた氏子の六條さんが挨拶に立ち、一同乾杯。めでたく嘉吉祭を終えたことを喜び合いました。

 多武峰(とうのみね)の山里の実りを、趣向を凝らし、丹精込めて盛りつけた「百味の御食」。その野趣と雅(みやび)が薫る神饌の数々は、個性豊かで愛らしく、目を瞠(みは)るものでした。令和8年の嘉吉祭も、もう目の前。さて、この秋はどんな「百味」が神前にのぼるのでしょうか。


[取材・文/中尾千穂]

百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<6>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<5>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<4>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<3>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<2>は↓
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百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<1>は↓
https://www.nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100948

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https://www.tanzan.or.jp/
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