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そごう美術館「artisansと輪島塗」
令和8年2月5日

「輪島復興支援」と銘打たれた輪島塗(わじまぬり)の展覧会が、横浜のそごう美術館で開催されています。能登半島の輪島でつくられる工芸品である輪島塗は、全国の漆塗の産地のなかでも最も知られた存在ではないでしょうか。しかし、2024年の能登半島地震により、産地は壊滅的な被害を受けました。その存続が危ぶまれる事態に、地域の復興と輪島塗の未来を見据えたこの展覧会が企画されました。

 ところで、他の産地にはない輪島塗の特徴とはなんでしょうか? 真っ先に挙げられるのが、下地塗りに「輪島地の粉(じのこ)」を用いること。これは、海中のプランクトンが重なり出来た地層である輪島市小峰山(こみねやま=通称「地の粉山」)で発見された珪藻土(けいそうど)を、水と米糊、生漆(きうるし)と混ぜて焼成したもの。ガラスと同様の硬さをもつ珪藻土には微細な孔(あな)がたくさんあり、その孔の中に漆が浸透し、硬い塗膜(とまく)をつくることで、丈夫な漆器が出来上がるのです。輪島塗を輪島塗たらしめる最も重要な原料である「輪島地の粉」は、現在も門外不出とされています。

「輪島地の粉」のコーナーの写真パネルや実物見本は、どれも初めて見るものばかり。地の粉のほかにも、木地の材に、能登に古くから自生する「能登ヒバ」が用いられることについても解説されていて、輪島塗が地元の自然を生かし、生み出されてきたことが、改めてわかります。

 もうひとつ、輪島塗の特徴に挙げられるのが、分業制が確立されていること。輪島塗の技術は昭和52年(1977)に重要無形文化財に指定されています。その技術は、漆器の素地となる木胎(もくたい)を製作する作業、髹漆(きゅうしつ)と呼ばれる塗りの作業、加飾(かしょく)と呼ばれる装飾を加える作業ーーーーの漆器の製作工程に、8つの部門があり、それぞれ専門の職人がいます。展覧会のタイトルである「artisansと輪島塗」のとおり、職人と技法についてもわかりやすく展示されています。

 木胎(もくたい)を作る技法には4つの部門があります。そのうち、刳物(くりもの)は材にホウノキを用い、轆轤(ろくろ)を使わずに、鑿(のみ)や彫刻刀で彫り抜いて木胎を作ります。この技法で作られた、可愛らしい鯛や折り鶴の刳物も展示されていました。

 同じく木胎を作る技法のなかでも、曲物(まげもの)は、木材を柾目(まさめ)の薄板にして水に浸けて乾かし、曲げて作ります。材に用いるのは、ヒノキ・アスナロ・クサマキ。職人のパネル紹介のほか、製作工程や道具類、削った木屑まで展示されています。

 輪島塗は、髹漆だけでも30工程に及びます。その入念な作業により、堅牢で美しい光沢のある作品がつくられるのです。会場には細長いガラスケースの中に、椀の髹漆の工程見本が順番にずらりと並べられています。現地へ行ってもなかなか見られる機会のない貴重なもので、壮観です。

 展示を前に、内覧会では重要無形文化財「髹漆」保持者の林暁(さとる)さんが解説してくださいました。塗っては研ぎ、塗っては研ぎ、を繰り返す、気が遠くなるような作業です。

 ガラスケースの前には、工程ごとに小さな四角い見本の板が置かれていて、自由に触ることができるのが面白かったです。左の「布削り」は少しざらっとした感触、右の「中塗り研ぎ」はすべすべした感触でした。

 製作に用いる道具もまた貴重です。こちらは髹漆に用いる刷毛(はけ)の見本。人毛を麦漆で固めたものが、刷毛板の端から端まで入っていて、鉛筆のように切り出して使えるもの。刷毛に用いる人毛のなかでも最高の材料となるのが、その昔、髪を結う際に地毛が足りない部分を補うために用いられた古い髢(かもじ)。理由は、年月を経て脂分が抜けているからだそう。

 こちらは重要無形文化財文化財「蒔絵(まきえ)」保持者の浦出勝彦さんの仕事場を再現した展示。畳に敷かれた座布団を前に、作業台が置かれています。奥にある棚のようなものは、漆を塗った後の漆器を入れて、乾かして硬化させるための箱で、「室(ムロ)」と呼ばれます。手前にはさまざまな種類の刷毛や筆が並んでいます。内覧会では、ご本人が解説してくださいました。

 蒔絵は、漆器を加飾する技法の一種。まず、器の表面に漆で文様を描き、漆が固まる前に金や銀などの金属の粉を蒔きます。その上から漆で塗り固めた後、文様が現れるまで研ぎ出します。もうひとつの加飾の技法に「沈金(ちんきん)」があります。こちらは、漆の塗面に文様を彫り、そこに漆を摺り込んで金箔や金粉を押し込み、文様を表すもの。摺り込んだ漆が接着剤となり、箔や金粉が固定されるのです。会場には、それぞれの技法の工程や種類の見本もたくさん展示されています。

 デパートの館内にある美術館ですが、作品を並べる通常の展覧会とは異なり、今回の展覧会では、「石川県立輪島漆芸技術研修所」の全面的な協力のもと、輪島塗の特性や工程がパネルや見本を多用してわかりやすく展示されています。内覧会では同研究所所長の重要無形文化財「髹漆」保持者の小森邦衞(くにえ)さんはじめ技術保持者の方々が直接、参加者に解説してくださり、美術館と産地・作家との信頼関係あっての企画であることも伝わってきました。ひととおり展示を見れば、輪島塗がとてつもない手間暇をかけ、最高の材料と技術でもって作られていることがわかります。人間国宝はじめ輪島塗の作家による作品の展示もあり、大充実の展覧会でした。


artisansと輪島塗 輪島復興支援
会期:2026年1月22日(木)~2月23日(月・祝)
会場:そごう美術館[横浜駅東口・そごう横浜店6階]
※詳細は下記公式サイトへ
https://sogo-museum.jp/exhibitions/details.jsp?id=1645




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