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もし宮中晩餐会に招かれたら

『皇室』バックナンバーより 第5回
令和7年8月29日
華やかなイメージのある「宮中晩餐会」。
しかし、宮中晩餐会は、賓客を招いての単なる食事会ではない。
日本と世界各国との友好親善増進のため、
両陛下が主催して執り行われる重要な式典なのである。
宮中晩餐会の歴史と意義、当日の進行を紹介するとともに、
実際のテーブルセッティングやメニュー・カードなどの写真も掲載する。

(19号より)

宮中晩餐会の意義と歴史
 宮中晩餐会は、原則として国賓が訪日した際に開かれる。天皇・皇后両陛下が主催者として、賓客に対して最上級のおもてなしをされる重要な「場」である。
 わが国で宮中晩餐会が開かれるようになったのは、19世紀後半、鎖国が解かれて国際社会に参加して以降のことという。最初の宮中晩餐会がいつ開かれたのかは不明だが、明治23(1890)~43年にかけてベルギー公使として東京に駐日していたアルベール・ダヌタン男爵の夫人の日記の中にしばしば宮中晩餐会の記述がみられる。
 第二次世界大戦後には、プロトコール(国際儀礼)に基づいて国賓をもてなし、天皇の「おことば」と相手国の答礼スピーチが行われるというスタイルが確立。平成10年からは、それまではメイン料理の後に行われていた天皇のスピーチが、晩餐会の冒頭に行われるようになった。
 宮中晩餐会に招かれるのは、日本側は皇族方、立法・行政・司法の三権の長、政財界の要人、さらに相手国と密接な関係を持つ機関・団体の代表者、文化・科学・芸術などの分野における功労者などである。
 賓客側からは、来日随員と駐日外交使節、日本との友好のために尽力している人々が招かれる。



宮中晩餐会のメインイベントは天皇陛下の「おことば」
 宮中晩餐会の準備は、国賓が来日する約1年前から始まる。準備の中で特に重要なのが天皇陛下の「おことば」である。
 おことばの内容は以下のような構成となっている。
・両国間の友好親善の歴史をよろこぶ
・相手国に慶事があれば慶事を祝し、弔事があれば弔意を表す
・相手国の発展と国民の幸福を祈る
・困難があっても両国民がそれを乗り越え、将来にわたる善隣平和の関係の達成に努力することを希望する
 おことばの最終テキストは、賓客の答辞の準備に役立てるため事前に相手国側に示される。

おおよそのメニューが決まるのは約3週間前
 晩餐会のメニューは、令和以降は、両陛下のご意向で外国からの賓客を日本の伝統食でもてなす試みもされているが、原則としてはプロトコールに基づいてフランス料理のフルコースが供される。
 メニュー作りから食材の調達、調理、当日の配膳などは宮内庁大膳課の担当である。おおよそのメニューが決まるのは約3週間前。「賓客の口に合うかどうか」が大前提となるが、特に配慮が必要なのが、宗教上の理由などによって口にできない食べ物があるかどうか、ということだ。晩餐会では賓客にいかに気持ちよく過ごしていただくかが重要なので、さまざまなことを十分に考慮したうえで、メニューが決められていく。
 メニューが決定したら、次は食材の調達である。栃木県にある宮内庁の御料(ごりょう)牧場で生産されたものを中心に、無農薬の野菜、肉、卵、乳製品などが揃えられていく。「極上の食材を使用する」のが大前提で、羊肉など、場合によっては晩餐会当日のために1年かけて育て上げることもあるという。
 晩餐会の雰囲気を盛り上げるBGMの選曲は、宮内庁楽部(がくぶ)の洋楽担当楽長および指揮者が行う。相手国ゆかりの楽曲や相手国出身の作曲家の手による曲などが選ばれるそうだ。
 周到に用意されるのはおことば、料理、BGMだけではない。ほかにも賓客が滞在中の車の手配は車馬(しゃば)課、宮殿内の装飾は宮殿管理官付き、空調関連は工務課、盆栽や花は庭園課が担当し、準備を進めていく。
 以前は年間に4~5回の国賓訪問があったというが、現在は多くて年に3回、通常は1~2回という。



ドレスコード
 プロトコールに基づき、国賓を招いての宮中晩餐会ではほとんどの場合、正装が求められ、男性は「ホワイト・タイ」(燕尾服)、女性はロング丈のイブニング・ドレスを着用する。男性は「ブラック・タイ」(タキシード)という場合もある。
民族衣装も正装と認められており、わが国の場合、男性は紋付羽織袴、女性は白襟紋付(色留袖、訪問着)を着用する。軍服も正装である。

当日のタイム・スケジュール
 宮中晩餐会の会場は宮殿で最も広い「豊明殿」(ほうめいでん)である。
晩餐会が始まるのは、だいたい午後8時。その30分前、宮殿の南車寄(くるまよせ)に主賓夫妻が到着し、両陛下がお出迎えになる。その後、皇族方がお待ちになっている「松風の間」に入り、15分ほど歓談される。
 出席者は午後6時40分頃から到着し始める。北車寄から「春秋の間」に入り、食前の飲み物を飲みながら両陛下、主賓夫妻との謁見の時を待つ。
 両陛下と主賓夫妻が歓談後に「石橋(しゃっきょう)の間」に移ると、出席者らは順に石橋の間に入り、両陛下、主賓夫妻と挨拶を交わし、豊明殿へと進む。
 午後8時、式部官の「まもなくお出ましです」の合図で、両陛下、主賓夫妻、皇族方が入場されてくる。その後、すぐに天皇陛下のおことばがある。相手国の国歌が演奏され、天皇陛下のご発声で乾杯。続いて主賓の答礼スピーチ、日本国歌演奏、主賓のご発声で乾杯となる。
 その後、食事が始まる。食器は国賓晩餐用に特別に用意されたもので、菊の紋が施された金彩陶磁器。ナイフやフォークなどのカトラリーは純銀製である。
 食事・歓談の時間は約1時間45分。終わると、両陛下、主賓夫妻は石橋の間で歓談される。皇族方、随員、出席者は春秋の間で懇談の時間を持つ。午後10時頃、両陛下と主賓夫妻が春秋の間に入り、20分ほど出席者らと言葉を交わされる。その後、両陛下と主賓夫妻は松風の間に入り、午後10時30分、南車寄へ。両陛下が主賓夫妻、随員一行の車列を見送られ、宮中晩餐会は名残惜しくも終了となる。出席者の食後の歓談もお開きとなり、係官の案内で退室し、家路へと向かうこととなる。
 これまでに開かれた宮中晩餐会は、戦後以降だけでも100回を超える。世界情勢の変化に伴って、過去に来日した国が分裂したり独立したり、また元首の失脚などということもあった。それらを考えると、宮中晩餐会は単に「国賓をもてなす優雅な宴」ではなく、世界の歴史が刻まれる場と言ってもいいのかもしれない。

*『皇室』19号では、宮内庁式部職(儀式を担う部署)で式武官を務めていた
山口弘康さんに取材し、記事を作成しています。
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