読みもの

ニッポン超絶技巧――職人さん探訪

第1回 桐箪笥の匠――その3
令和7年8月6日
3 柾目と板目

倉庫内の様子


桐箪笥はほとんどオーダーメイド
 柾板とは柾目の板のことです。製材した木材を見ると、木目がまっすぐなものと、山形になっているものがあります。木目がまっすぐ伸びているのが「柾目」(まさめ)、山形になっているのが「板目」(いため)です。
 先述したように桐の板はもともと収縮率の少ない木ですが、そのなかでも柾板は内部が締まっているため反りが出にくく、高品質とされています。しかし、柾板は丸太の中心部から外側にかけて放射線状に製材するので、丸太の半径が最大サイズになり、製材できない部分が出てきます。それゆえに希少かつ高価です。

柾目と板目

柾目(左)と板目(右)


 柾丸太とは、そんな貴重な柾板がたくさん取れる丸太のことです。つまり、木目が詰まっていて真っ直ぐなのです。しかし、横溝さんは丸太の段階で中を判断するのは難しいとおっしゃっていましたが……。
「この柾丸太を買った時は、材木屋さんと私とで丸太を見て、『これは柾丸太に違いない!』とお互いの判断が一致したんです。で、製材してみたら見事に当たっていたわけです。柾丸太は値段が他の丸太とはまったく違うので、本当に安心しました(笑)。『製材してみたらがっかり』ということもあります。代金は返ってこないのですが、それはそういうものなので、仕方ありません。でも確かにリスクは高いので、丸太で買わないで柾板として製材されたものを仕入れることが多いですね」

 横溝さんが次に手に取ったのは北米産の板でした。
「ロッキー山脈あたりの木と聞いています。私が北米産の木の良さに気づいたのは、仕事を始めてから10年ほど経ってからです。良いという話はきいていたのですが、自分で扱うようになってはじめて実感しました。目が太くてまっすぐで、しっかりしている。日本材に負けないくらいですよ」

北米産の板。日本材に負けない高品質


 ただ、この倉庫の中には高価な柾板ばかりがあるわけではなく、さまざまなレベルの板が揃っているということでした。桐箪笥は基本的にすべて注文に応じて作るオーダーメイドなので、お客様の予算に応じて作るのです。注文は家具屋さんやデパートから問屋さん経由で入ることが多いそうです。
「人間でいうと顔に当たる前板の部分には柾板などの高級な材を使います。抽斗(ひきだし)の底板も、抽斗を開けるとすぐに目に入るので、ここにもいい材料を使います。目立ちにくいところ、たとえば和服をしまう棚板の奥のほうなどは柔らかめの材料を使うなど、場所に応じて材料を使い分けているんです」
 なるほど。すべて柾板を使っていたらとんでもなく高価になってしまいますよね。
(次回:8月13日掲載予定 取材・文/岡田尚子)



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