読みもの

和の響き――日本の音色に魅せられて

第1回 龍笛――その3
令和7年8月6日
3 楽器を作ると、その楽器のことがよくわかるようになる

大学卒業後は薗廣教さんの孫弟子として住み込みで雅楽を学ぶ

 こうして藤脇さんは雅楽をはじめとする日本の伝統文化を学ぶために國學院大學神道文学科に進学。サークルで龍笛を吹くようになりました。それにしても思い切った転身です。
「しかし龍笛はサークル活動で上達するような楽器ではないんです。なかなかうまくならないので、ちゃんとした人に習おうと思って雅楽道友会を紹介してもらったのが今につながっているんです」

 藤脇さんは神職と社会科教師の免許を取得して大学を卒業。教師と神職と雅楽のいずれを選ぶかどうか迷った末に雅楽を優先することにし、平成18年に雅楽道友会に入りました。人生の中で音楽が重要な地位を占めていると感じたからです。
「雅楽道友会の先輩はみな薗先生の内弟子です。先生と寝食をともにして雅楽を学んだわけですが、先生は僕が入ったころにはすでに亡くなられていたため、孫弟子として4年間住み込みで雅楽を学びました。現在は有限会社・薗(楽器工房SONO)の社員として楽器を作り、週末は凡そ乃木神社の楽人として結婚式などで演奏しています」

上から神楽笛、龍笛、高麗笛(鈴木敏也氏撮影)


 有限会社・薗(楽器工房SONO)とは雅楽道友会の一部です。雅楽を広めていくときに雅楽器も一緒に広めようという目的で始まりました。道友会の運営メンバーの経済的な支えにもなっています。
「楽器を作ると、その楽器や雅楽のことがよくわかるようになります。ちなみに昔の笙吹きは自分の笙を自分で作っていましたし、今でも自分で分解して調律しています。篳篥はリードを自分で作らないといけません。ただ龍笛だけは奏者が自分で作ったり修理したりするということは多くありません。龍笛の構造はシンプルなんですが、調音が複雑なんです」
 藤脇さんは雅楽を始めたころから雅楽器の理論や構造に興味を持っていたそうです。楽器にはそれぞれの「仕組み」があり、「こういうふうにすれば、こうなるはず」という論理が備わっています。もともと論理好きだったこともあって、いつのまにか楽器そのものにも興味を持つようになったというわけです。
「雅楽道友会に入る前の平成17年頃から見習いで作り始めたので、もう18年間になりますね。最初の頃は演奏活動の合間に龍笛を作る暮らしを想定していたのですが、今は演奏も製作も本業となりました。雅楽道友会のコンセプトはあくまで演奏の空き時間で楽器製作、調律を行うというものでしたが、楽器製作と演奏は切り離せないので、現在は両立しています」

 現在、藤脇さんのもとには全国から修理依頼と新管製作依頼が届きます。取材にうかがった令和5年10月の時点では、修理を15本、新管を10本ほど同時並行で作業していました。新管は順番待ちで依頼してから完成までに1年くらいかかるそうです。高麗笛(こまぶえ)、神楽笛の修理も行っています。

次回からはいよいよ龍笛についてのお話です。
(次回:8月13日掲載予定 取材・文/岡田尚子)
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