読みもの

連載 方言「知らんけどね」

第7回「わいさーき&ぎゃん」熊本弁
令和7年10月2日

第7回「わいさーき&ぎゃん」熊本弁
 知らないとまったく分からない言葉がある。以下のフレーズが分かる人は、熊本界隈以外にはあまりいないだろう。
「あん人は、この前、県大会で優勝したてたい」「わいさーき!」
 初めのフレーズについては解説の必要はないだろう。念のため標準語にしておくと「あの人は、この前、県大会で優勝したんだって」である。問題は次のフレーズ「わいさーき」である。これは「すごいね!」とか、称賛を含めた「本当?」といった意味で使う言葉なのである。現代で言えば「いいネ」にあたり「ヤバい」などもこの言葉に該当するだろう。
 一体、なぜ「わいさーき」がこのような意味になるのか筆者にもさっぱり見当がつかないのだが、この言葉は微妙に変形しても使われる。「わいさーし」になることもあるし「わいさー」とも言われるのだ。もっと変化すると、その語感から「ばさーし」とさえ言われることさえある。そう熊本名物の「馬刺し」に掛けているのである。
 この「ばさーし」は、一般的ではないが、「わいさーき」が使われるだろう場面において「ばさーし」と言えば、熊本人であれば誰もが見当はつく。実際、筆者は高校時代、何かの話題で「わいさーき」という言葉が飛び交っていた時に、誰かが「ばさーし」と言って、皆で大笑いしたことを覚えている。
 このように語源不明の言葉は多い。熊本弁で言えば「ぎゃん」もそうだろう。「ぎゃん言ったろう」「ぎゃんせんと」「ぎゃんぎゃん言うな」などと使われる。意味はそれぞれ「そう言っただろう」「このようにしないと」「どうのこうの言うな」といったもので、指示代名詞のような使い方がされる。なので、「どぎゃんもこぎゃんも分からん」(どうもこうも分からない)といった表現になる。だから、かなりのお年寄りになると、道案内などで手振りを交えながら「あぎゃん行って、そぎゃん行くと、着きますけん」(あちらに行って、そっちに行くと、着きますよ)になる。
 また一方で、称賛の意味でも使われる。「この馬刺しは、ぎゃんうまか」(この馬刺しは大層うまい)の意味になるのだ。
 それでは、これらを使って熊本名物「からしれんこん」を食べた時の食レポを書いてみよう。
「このからしれんこんはぎゃんうまか! 辛みの鼻にツンと来て、どぎゃんもこぎゃんも言えんばい」「わいさーき、ばさーし」
文/伊豆野誠

前回はこちら https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100719
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