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7 リードの調整②リード単体でF(ファ)の音を出す
ここで新屋さんが作業中のリードを吹いてみました。意外なほど大きな音です。
「まだちょっと高いかな。音が高いというのはリードが固いということなので、こういう場合は少し寝かせてまた削ります」
新屋さんはそのリードを6番と書いてある箱にしまいました。新屋さんの後ろの棚には、1番から6番までの数字が書かれた小箱があり、どの箱にどの段階まで削ったリードが入っているか一目でわかるようになっています。数字が小さくになるにつれて、完成間近になっていくそうです。
「ただちょっと削ったら一足飛びに良くなるリードもあるので、すべてのリードが同じように進むわけではありません」
新屋さんはいろんな段階のリードを吹いてくれました。一音聞いただけで、すぐに「固いな」「まだちょっと高い」というような感想が出てきます。
「この時点でリード単体でF(ファ)の音が出れば、図紙を巻きます」

図紙は最終的には伊勢和紙を用いますが、この時点では書道で使う半紙を使います。伊勢和紙はきめ細かく美しい光沢があるうえに丈夫なので、昔からリードの図紙に用いられているそうです。また、伊勢和紙は御神札に使われるために「清浄さ」が求められるそうで、本来は神様に楽しんでいただくために演奏される雅楽にぴったりなのでしょうね。


茶渋の不思議な効果
次はリードを篳篥本体にセットして、セメもつけて吹いていきます。 セットする前にはリードを湿らせておきます。
「お酒が好きだった薗先生はリードを熱燗に漬けてましたけど(笑)、僕はお湯に漬けています。この時点で最初にチェックするのは、息がちゃんと抜けているかどうか。最初はリードが固いからどうしてもうまく息が抜けていかない」
息が抜けていかないというのは、どういう状態なのでしょうか。
「息を吹き込んでも押し返されるような、楽器の中で、吹き込んだ息が詰まっている感じがする状態ですね。こういう状態ではいい演奏はできない。僕は『抜け』を重視しているので、まずはきれいに息が楽器の外に抜けている状態を目指すわけです。まあ、音色的には、実はほんの少しだけ押し返されている感覚があるのがいいんですけどね」
息がちゃんと抜けるようになると、音程をチェックします。先にも書いたように調律は「管が3~4割、リードが6~7割」なので、この時点で管本体をいじることはありません。吹口部分をさらに削ったり、図紙の量を調節したりして、リードで調整していきます。本体で調律していく龍笛とはぜんぜん違うわけですね。
「最初はリードが固いから、たいていは音が高い。だから少しずつ音を下げていくのですが、不思議なのはリードをお茶に漬けて、乾燥させてと繰り返していくうちに、削ったり図紙を巻き直したりしなくても、なぜか音が変わっていくんですよ。茶渋が付着するからかな、なんて思っているんですが。長持ちするいいリードは茶渋が着いて真っ黒ですよ」

お茶に漬けたり乾燥させたりするだけで音が変わるとは、なんとも不思議な話ですね!これは水に漬けた場合には起こらない現象なのでしょうか。気になります……。
「このリードにをセメつけて本体にセットして調律する工程だけで約1か月かかります。最初に葦を切るところから考えると、リード完成までは約1か月半くらいでしょうか」
小さなパーツなのにこんなに時間がかかるとは。篳篥にとってリードがいかに重要なものなのかがわかります。
最後は図紙を伊勢和紙に巻き替えて完成です。

(次回更新:11月26日掲載予定 取材・文/岡田尚子)
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