読みもの

和の響き――日本の音色に魅せられて

第3回 篳篥――その3
令和7年10月22日
3 リードが音色を決める



「めぐり」とは
 ここで45年間にわたって篳篥を吹き続けてこられた新屋さんに、篳篥の魅力について教えてもらいましょう。
「まずは音色ですね。人間が生きる大地のあたたかさを感じさせる音色。特に僕が理想とするのは、芯のある音色。人によって音色は違うけど、うまい人の音色には芯がある。息が弱い人は芯のある音を出しにくいし、息の強い人でも初心者はふわふわとした音になりやすい。長年吹いていてテクニックがあっても、芯のない音色というのもあるから、いい音色を出すのは本当に難しいと思いますねえ」
 篳篥は非常に繊細な楽器です。指を動かさなくても、吹き入れる息の強弱や唇の位置で微妙に高さを変えることができます。これは「塩梅」(えんばい)といい、篳篥の代表的な奏法です。と、ここで新屋さんが「めぐり」という技法を実演してくれました。



 指使いを変えていないのに音が下がり、また上がりました! 雅楽の管絃でひときわ大きく聞こえてくる「タ~ア」という篳篥独特の音です。あれは指使いを変えて音を変えていると思っていましたが、実は口の中の操作で行っていたのですね。
「音に表情をつけるというか、彩りをもたせるというか、そういう技法ですね。これを口の中の操作、息の大小や息を吹き込む方向で操作しなくちゃいけないのが、篳篥の難しさでもあり面白さでもあると思います」

演奏する曲目によってリードを変える
 また、冒頭でも書きましたが、篳篥は龍笛のように楽器本体に直接息を吹き入れるのではなく、蘆舌(ろぜつ)と呼ばれるものを楽器本体に差し込んで吹きます。蘆舌は西洋の楽器でいうところのリードです。しかも篳篥は2枚のリードを振動させて音を出すダブルリード楽器で、このリードによって音色がずいぶん変わります。
 まずリードの部分を本体からたくさん出すようにセットすれば、管全体の長さが長くなるので音は低くなります。
「リードの下の方、管に差し込む部分には図紙(ずがみ)という和紙が巻かれています。この図紙をたくさん巻くと、リードが分厚くなって管の奥まで入らなくなるので、結果的に管が長くなって音が低くなる。図紙の巻きは自由に変えられるので、通常は自分が一番吹きやすく、正しい高さの音が出やすい位置にリードがセットできるように巻きます」



 さらにリードそのものにも個性があります。
「そもそも同じリードでずっと演奏するわけじゃないんです。付物(つけもの)といって歌物の伴奏をするときは、歌の邪魔をしないように古いリードを使います。古いリードはやさしい息でもよく振動して、音が出やすいんです。逆に新しいリードは固くて振動しにくいので、音が出にくい。息を強めに入れる必要があるから、大きな音が出ちゃうので歌ものの伴奏には向かないんですよ」
 演奏会ではいろいろな曲を吹くので、いろんな特徴のあるリードを複数(管絃用、舞楽用、高麗樂用、神楽用、付物用)用意するそうです。なるほど、演奏会では、篳篥の奏者は管箱(かんばこ)と呼ばれる箱を持って登場しますが、あの中に篳篥と舞台用のリードが入っていたわけですね。



 ちなみに笛はリード楽器ではないので、音色や音の大きさを変える必要がある時は、笛そのものを変えます。管絃では龍笛を用いますが、神楽を演奏するときは神楽笛、高麗樂の演奏には高麗笛を用います。龍笛は吹き入れる息の強弱によって高音から低音まで作れるので、もっとも広い音域を持っています。神楽笛は落ち着いた深い音色、高麗笛は澄んだ鋭い音色が特徴です。
(次回更新:10月29日掲載予定 取材・文/岡田尚子)

第2回(前回)https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100724
第1回 https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100723

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