読みもの

和の響き――日本の音色に魅せられて

第2回 篳篥ーその8
令和7年11月26日
8 リードは楽器と吹く人に合わせて作られるべき

人それぞれに固有の音がある
 リードは消耗品です。月に1回くらいしか吹かない場合は2~3年保ちますが、新屋さんのように毎日吹く人なら保って3か月だそうです。素晴らしくいいリードを作れたと思っても、ずっと使えるわけではないんですね。
「昔は葦の質が良かったから半年~1年ほど保ちましたけどね。古くなって柔らかくなったリードは、前にも言ったけれど歌の伴奏や神楽を吹く時用に回します」
 新屋さんのご自分用のリードの箱を見せてもらうと、白っぽい色から茶色まで、さまざまな色をしたたくさんのリードが入っていました。この中から曲に合わせたリードを選んで演奏会で使うわけですね。




「本来、リードは楽器と吹く人に合わせて作るものなんですよ。僕はたくさんの依頼を受けて作っていますが、その人の楽器もわからないし、吹き方もわからない。だから僕の篳篥と僕の吹き方に合わせるしかないので、ごく一般的なリードしかお渡しできない。そこが残念なんです」
 昔は篳篥奏者は自分でリードを作っていたそうです。現在でも宮内庁楽部の楽師さんたちはみなご自分でリードを作っているそうですし、趣味で吹いている方でも自作する人も多いそうです。
「自分でリードを作ると、自分の息に合わせられるし、好みの音色で演奏できるでしょ。硬質な響きが好きな人もいれば、柔らかい音色で吹きたい人もいますからね。自分で作ると、リードの厚みや固さを調整することで音色を変えられるんです」



 面白いのは、同じ篳篥に同じリードをセットして吹いても、吹く人によって音色が変わることです。
「骨格なども影響しているのかなあ。今、僕は元楽部の首席楽長を務めていらっしゃって、現在雅楽道友会の顧問をしていただいている池邉五郎先生に習っていますが、池邉先生の音色は、軽やかな、リズミカルな音色で芯があります。先生は僕にリードを頼んでくださるんですが、僕が同じリードで吹いても同じ響きにはならない。テクニックはさておき(笑)、なんだか人それぞれに固有の音があるような感じがするんですよ。頭で想像している理想の音色が違うからかなあ」
 ちなみに新屋さんの恩師、雅楽道友会を創設された薗先生の音色は、草笛のような音色だったそうです。
 また、同じ人でも年を取ると響きが変わってくるといいます。やはり息のボリュームがなくなってくるからでしょうか。
「僕も若いときはリードの外径が1.25センチくらいだったけれど、今は1.1センチになりました。年齢を重ねるとどうしても息が細くなるから、幅が広いと息の量が足りなくなっちゃうんですね。ただ逆に言えば、年をとってもリードを工夫することで鳴りのカバーはできるということです」
 こういう話からも、篳篥という楽器にとってリードがいかに重要かがよくわかりますね。
(次回更新:12月3日掲載予定 取材・文/岡田尚子)

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