読みもの
「目直(めなお)し」と「板接(いたは)ぎ」次に案内してくれたのは「目直し」の工程です。職人さんによっては、同じ工程を「柾目直し」「柾直し」とも言うそうです。
実は桐箪笥は、たとえば抽斗の前の板も、抽斗の中の底板も1枚の板で作られているわけではありません。何枚かの板を接着して規定のサイズにしています。抽斗の前の板なら2~3枚の板で構成されています。その際、柾目がまっすぐに揃っていないと美しくないし、断面がぴったり合わないと接着できません。そのために板をきれいに整える作業を行う必要があるのです。これが「目直し」です。
横溝さんが専用の台の上に厚さ5ミリほどの柾板を置いて、まずはカンナでおよそまっすぐに削ります。この柾板は抽斗の前板になります。扉の内側など、目立ちにくい場所に用いられる板の場合は、機械でまっすぐにします。


その後、幅18ミリのところに刃のついた「罫引き」(けひき)と呼ばれる道具を使って、幅10センチほどの板を18ミリ幅に割っていきます。
「幅を狭くすることで、曲がっている力を弱めているんです」


18ミリ幅の柾板数枚を木工用ボンドを使って接着します。これが「板接ぎ」です。
「木工用ボンドにもいろいろあって、ホームセンターなどにあるのは10番台、20番台が多いですが、桐箪笥で使うのは5番台。数字が少ないほうが接着力が強いので、これはかなり強力ですね」
先代は1番を使ったこともあるようですが、使いにくかったとのことで5番台に落ち着いたそうです。
最初から最後まで一人で作る
木工用ボンドで接着された数枚の18ミリ幅の板を、専用の道具(板接ぎ台)に挟み、播金(はたがね)と呼ばれる道具を使って締めていきます。
実際に目の前で締めてもらいました。すると、ボンドで接着されているとはいえ少し隙間があった箇所がぴったり合うようになっています!
「これがプラスチックならこうはいきません。木は固いように見えてしなやかで可変性があります。ただ木も幅が広い状態では、この道具を使っても動いてくれないので、締められません。細くしてはじめて動くようになり、撓み、歪みが直るというわけです」

木は生き物であることを実感した瞬間でした。ちなみに播金で圧力をかけている時間は、ボンドが乾くまでの間ということで、天気の良い日なら1時間だそうです。
あとで完成した桐箪笥を見せてもらいましたが、目直しされ、板接ぎされた板は、柾目もまっすぐで、どこで接着されたか、よく見ないとわかりません。最初から1枚の板のようです。横溝さんは「そう見えるように木目のバランスを考えて作っています」と話しますが、すごい技術だなあと思いました。

すべての板の目直しと板接ぎが終わると、「端切り」(はなぎり)を行います。これは板を図面通りに切る作業です。端の部分を切り落とすので、この名前があります。
ここまでが下づくりの作業で、次の「組み手加工」からは加工作業となります。
「大きな会社だと下づくりと加工作業を分けているところもあります。うちの場合は職人が少なかったこともあって、最初から最後までひとりで担当しています。私がずっと桐箪笥職人として頑張ってこられたのは、最初に一人で桐箪笥を最初から最後まで仕上げたときの喜びが大きくて、忘れられなかったからだと思っています」
この下づくりの作業にかかる日数は約5日! 思った以上に早くて驚きます。
(次回:8月27日掲載予定 取材・文/岡田尚子)
その4(前回) https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100642
その3 https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100641
その2 https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100635
その1 https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100639