読みもの
畳の意外な効用―その3「間取り図が描けるのは日本人だけ?」畳がもたらす日本人の画力への影響について考察してきましたが、日本人の間取り図を描く能力は海外の人より高いのではないかと私が思ったのは、実際に海外の友人が「間取り図を描いたことがない」といったのを聞いて衝撃を受けたことに始まります。
若いころ海外一人旅をちょこちょこやっていたおかげで、カナダ、アメリカ、イギリスに友人ができました。メールもSNSもない時代ですから、一度会ったら住所を手書きで交換、お互いエアメイルを出して友情を育みました(手書きの住所が読み取れずに戻ってきたものもあったなあ…)。
特に、カナダ人のスザンナとは何通も手紙のやり取りをして、私がカナダに行ったときは家に泊めてもらったことも何度かあります。彼女のパートナーのローランドとも仲良くなりました。
私の下手な英語でスザンナたちと何を話していたかというと、ほら私、漫画家ですから絵を描いて言葉で伝わらない部分を絵で補っていたのです。言葉で通じなくても絵さえ描けば何とかなる!欲しいものは絵を描けば手に入るし、日本の話も絵を描けば通じるし、英語力があんまりなくても友達と数時間話ができるんです。
たまたま家の話になったとき、私は日本で住んでいたアパートの間取りをサラサラと描いて見せたら、スザンナとローランドにものすごく驚かれました。この話は連載の第1回でもお話ししましたが、あれは本当に強烈な思い出になっています。
2DKのアパートの間取り図、日本人ならパッと思いつくであろう、よくあるタイプの間取りですよ? それを描いただけで彼らは目を丸くして驚くんですから。
逆に、二人に自分の家の間取りを描いてもらおうとしたら、二人とも描けないのです! いや、書いてくれたけど、部屋の配置の順番がわかるくらいで、大きさがバラバラ…。正方形に近い形の部屋なのに、ものすごく横長の長方形になっていたり、大きさと形に全く頓着しないで描いてくれました。

ほかの海外の友人に聞いてみても、だれも間取り図を描いたことがないということにまず仰天! 無理して描いてもらったとしても、大きさの基準がないせいか、妙に縦長の部屋とか、ほぼ丸でしかない区分けとか、間取り図という概念にそぐわないものが出てきたのです。
実際に私が聞いたのはカナダ人4人、アメリカ人2人、イギリス人2人、というサンプル数の少ない偏った調査ではありますが、日本人の友人が描く間取り図とものすごく違っていたのが記憶に残りました。これは80年代の話で、この時は「海外には畳という大きさの基準となるものがないからだ」とは思いませんでしたが、私はこのあと徐々に間取り図と畳の関係に気づいていくのです。
その後、ネットで検索してみると、海外、特に欧米では住宅案内に間取り図がついているものがほぼないので、間取り図を見慣れていないようなのです。
ヨーロッパの建築は石造りが基本。イギリスではレンガや石で外壁を積み上げていて、築何百年というもの珍しくありません。景観を守るために外観を変えてはならないという条例がある国も多いですし、家の形が何百年も変わっていないため、部屋のレイアウトも同じままです。外観を見ただけで内部が想像つくらしい、とフランス在住の友人(日本人)に聞きました。
アメリカ在住の日本人の友人によると、日本式の間取り図は全く見たことがないといいます。代わりに、オープンハウスといって、家の中を見て回るツアーが主流だそうです。
そういう国に、今までと違う新興住宅地ができて、家の間取りが家ごとに全然違うようになれば、間取り図も必要になるでしょう。でも、とりあえず古い家がずっと存続している国では間取り図必要がない、というわけです。
私の海外の友人たちは日常生活で間取り図を見たことがない。だから間取り図という概念そのものが無かったのか!と思い当たりました。
日本人と間取り図、いろいろ奥が深いです!
(次回更新:2月24日予定)
前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100753
●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。
