読みもの

赤星たみこの八街やちまたオバンギャルド・ライフ

通りすがりの女性を何と呼ぶか問題―その3「自分が自分であれば、それでいい!」
令和8年4月21日
 若さという呪いがある人生はつらいものです。若さだけに価値を見出すと、絶望しかありません。だって、毎日、自分より若い人が生まれてきているんですよ? 若さだけで勝負したら勝てないに決まってるじゃないですか。
 そりゃ、体力的には若いほうが力がありますから、若いほうが何かと便利ですが、知力、気力、コミュニケーション力、問題解決力、人生をエンジョイする力、私の場合どれを取っても大人になった今のほうが上です。
 特に、若いころは人間関係に悩むとなかなか立ち直れなくて長年鬱々としたものですが、今はいろんな対処法を覚えました。
 おばさんになるのもいいもんだな、と今は思っています。

 ただ、わざわざ人間を年齢で区分する呼び名をつけるのはいかがなものか、という意見があるのもわかります。
 中高年女性=おばさん
 中高年男性=おじさん
 高齢女性=おばあさん
 高齢男性=おじいさん
 若い女性=お嬢さん、おねえさん、ねえさん 
 若い男性=おにいさん、にいさん

 女性の場合、姐(ねえ)さん、姐御(あねご)、さらにはちょっと古いですが、御新造(ごしんぞう)なんていう言葉もあります。
 テレビの旅番組や地方取材番組などで、レポーターの方たちが地元の中高年女性に声をかけるときなど「おばさん」ではなく、「お母さんはどちらにお住まいなんですか?」と呼びかけるし、中高年男性には「おとうさん」と呼びかけていました。
 このシリーズの最初に出てきた、男子大学生に「おかあさん、その着物かっこいいですね」と言われたのは、まさにこのテレビでの、年配女性を呼ぶときの言葉、だと思います。
 私はこれはこれで別に気にしませんが、気になさる方は気になるかも?
 
 さて、英語ではどうでしょうか。女性に呼びかける言葉はMiss(ミス) Mrs.(ミセス) Mis.(ミズ)がありますが、今は未婚、既婚を問わず使えるMa’am(マーム)を使うのが一般的だと思います。
 Mis.は、女性をMiss(未婚)、Mrs.(既婚)で分けるのは差別になるからということで、どちらでも使えるようにと、1970年代頃からアメリカで広く普及し始めたと、以前にアメリカの友人から聞きました。
 その時、本当かどうかはわかりませんが、Mrs.(ミセス)は、既婚女性というだけではなくて、Mr.のもの、という意味もあり、ただ単に結婚している人、というだけではなくて、男性の所有物ともとられかねない意味合いがある、と聞いてびっくりした記憶があります。

 シンプルな英語に比べ、日本語だとそれこそたくさんの呼びかけの言葉があって、どれにするか迷いますよね。
 先にも書いたように、私は全く気になりませんが、「おばさん」と呼ぶのは失礼だ、という人が多く、私が使っているSNSのThreadsでは「ご婦人」はどうか、という話まで出ています。
「ご婦人」だと、例えばちょっと遠くにいる女性を指して「あのご婦人のバッグ、素敵ね」とか「あのご婦人はどこへ行くのかな?」みたいな会話ならすんなりわかるのですが、これが呼びかけとなると、「これ、そこのご婦人、どうなさった?」「ありがとうございます、持病の癪(しゃく)が…」みたいな、私には時代劇みたいなイメージがわいてくるんですが…。皆さん、「ご婦人」って呼びかけ、できます?



「おねえさん」ならどんな年代でもOKじゃないの? と言う人もいます。
 築地のような市場で働く人が「誰でも女性ならおねえさんと呼んでます」と言っていたのをテレビで見たことがあります。
 また、田舎で電気屋さんを営む私の同級生は「年上ならおばちゃん、90歳でも100歳でもおばちゃん。年下ならおねえさんと呼んでる」と言っていました。小さな町のお店ですから、知り合いばかりの中、親しみを込めて言っていることが相手にもよくわかっているのでしょう。都会の量販店ではお客様には絶対「おばちゃん」「おねえさん」とは言わないでしょうね。ただ単に「お客様」と呼ぶだけだと思います。



 ところで、デヴィ夫人というのも不思議な呼称です。お名前はデヴィ・スカルノですから、普通はスカルノ夫人というと思うのですが、なぜかデヴィ夫人。テレビのバラエティ番組では共演者から「デヴィ夫人」だけでなく「夫人、これどうしますか?」とか「夫人、こちらにどうぞ」みたいな呼ばれ方をしています。阿部昭恵さんも阿部夫人ではなく昭恵夫人と呼ばれることが多いですね。
 デヴィさんでもなく、昭恵さんでもなく、「夫人」をつける呼び方は、私が知る限り今までの日本語にはあまりなかったような気がします。
(佐藤栄作氏の妻、寛子さんは、ファーストレディとしてマスコミに出始めたころは総理夫人とか宰相婦人、または寛子さんと書かれていたような記憶があります。)

 この問題は、日本社会の成り立ちや、日本の人間関係の在り方に深くかかわっていそうで、簡単に結論は出そうにありません。これからも目の前の見知らぬ女性をどう呼ぶか、頭を悩ませる日々が続きそうです。でも私自身は「お母さん」と呼ばれようと「おばさん」と呼ばれようと、自分が自分であれば、どういうふうにカテゴライズされても気にしない。自らをオバサンと呼びつつ、オバンギャルドに生きていこうと思ってます! 

 以上、3回にわたって日本における女性の呼称問題の悩ましさについて考察してみました。次のシリーズもお楽しみに!

前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100848

●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。


ページ上部へ移動