読みもの

赤星たみこの八街やちまたオバンギャルド・ライフ

着物の話―その1「着物の打ち合わせは右前です」
令和8年5月13日
 みなさん、着物って着ていますか? 日本の民族衣装なのに、日本人の着物離れが止まらない、このままでは着物が廃れてしまう!という問題提起が長年続いています。どう思いますか?
 着物なんて廃れてもいい! あんなぎゅうぎゅう縛る苦しい衣服なんて、なくてもいいじゃん! という人はいるのでしょうか…? 
 そんなに着物が嫌いな人はいないで欲しいと思っていますが、それにしても着物を着る人がどんどん減っているのは事実です。嫌われているのか、ただ面倒くさいだけなのか、どちらなんでしょう。

 そういえば先日衝撃的な言葉を耳にしました。
 ご存じのように、着物は「右前」で着ます。右前というのは、の身頃が下で、その上に左の身頃を重ねる着方です。



 着物に慣れていない人だと「なぜ右の方が下なのに、右前と言うの?」と疑問に思いがちですが(私も子どものころよく迷いました)、この場合、「前」は「先」という意味で、「右側の身頃を先に身体に合わせる」ということなんですね。そして、その着方だと右手がすっと身頃の中に入ります。
 覚え方としては、右手がすっと身頃の中に入る状態が「右前」。または右の身頃を先に体に付ける着方、と覚えるといいと思います。ちなみに左手が入るのは死装束となるので、絶対にNGです。着物の「右前」に男女の別はありません。洋服は男女で前身ごろの打ち合わせが違いますが、老若男女問わず、着物は右前です。

 で、ここからが衝撃的発言の話になりますが、先日とあるSNS に、着物姿の男女の写真とともに「男女のエリのあわせかたが同じなんて、いつからそうなったの?」という文章を添えた投稿があり、超びっくり! コメント欄は「昔からですよ!」「男女同じです!」という叱り飛ばすようなものも多く、ちょっと炎上気味というか、荒れていました。でも私は叱るよりも悲しい気持ちになったのです……。「ここまで着物が遠い存在になってしまったんだなあ……」と。

 着物がここまで遠い存在になってしまったのはなぜでしょう。着物が着られなくなったのか、ちょっと考えてみました。
 着物は着てみたいけどそもそも持ってない。結婚した時に親が作ってくれて、持ってるけど…着付けできないし、一回も着たことない。着ていく場所もないし。成人式の振袖は着たけど、苦しかったのでそのあと着る気がしない。なんかルールが難しいから着るのが怖い……。最近SNSなんかで話題の着物警察が怖い……。
着物を着ない理由は大体これくらいでしょうか?
 いろんなシチュエーションがあると思いますが、やっぱり日本の民族衣装だから、着物を着られるようになったら楽しいですよね

 私はたまに着物を着ます。ちゃんとしたお出かけに着ることもありますが、近所のスーパーに買い物に行ったり、ファミレスでお茶したりと、特に理由もなく、普通の衣服の一つとして気軽に着ています。
 そんなことを言うと、「着付けできるなんてすごい!」「着物たくさん持ってるの? お金持ち~」「すごーい!」と言う人もいるのですが、いえいえ、私の着物はほとんどが古着屋さんで買ったものです。着付けだって見様見真似の独学なんです。

浴衣に紐をつけた寝間着 
 私自身の着物事始めは、子どものころ、1950年代にさかのぼります。最初に着た着物は、古い浴衣に紐をつけた寝間着でした。
 えっ? それって着物? ただの寝間着でしょ!という声も聞こえてきますが、だってパジャマとは違うし、そのおかげで洋服とは襟の合わせ方が逆だということも特に教えらなくても身につきました。これって実はすごく大事なことで、着物の基本である右前がスッと身についたのです。



 なんて、偉そうなことを言っていますが、しかし、その後はほとんど着なくなりました。着物より洋服のほうが断然好きだったのです。
 姉が2人いたので、5歳上の姉のために作った七五三の着物をお下がりで着た写真はありますが、それ以外で残っている着物写真は全くありません。
 成人式ももちろん着ていません。振袖なんて高価なものを買ってもらおうという気もサラサラなく、当時は貸衣装というシステムもなく、成人式にはジーンズのオーバーオールとネルシャツで過ごした記憶があります。本当に着物に全く興味がなかったのです。
 私が特別というわけではないんです。なんと、私の世代には、そもそも成人式に出るのはダサい、という風潮があったんですよ! 1970年代は、お役所が主催するイベントなんて絶対かっこ悪い!と反発して出ない若者が多く、成人式に出なかったという人はたくさんいます。出席したけどスーツだったという友人もいます。現在の成人式とはあまりにもかけ離れているので、若い人はびっくりするでしょうね。
 私には姉が2人いて、一番上の姉は私とは違い、着付け師のお免状を持っていたり、和裁も多少できるのですが、二番目の姉と私はそういうことには全く興味なく育ちました。それでも二番目の姉が成人式のとき、母は姉にウールのアンサンブルを誂えたようです。ご近所づきあいで半分仕方なく作ったのですが、そのアンサンブルが、のちに私の着物ライフをとても豊かにしてくれたんです! でも、その話はまたあとで。

前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100849

●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。


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