読みもの

お能の扉、開けといたよ

presented by 月イチ能楽講座 第28回
令和8年11月6日
シテ方・大槻裕一さん
「能面」#2



 中世にさかのぼる伝統芸能である「お能」は、知れば知るほど面白く、人をひきつけて離さない魅力があります。でも、古い時代の言葉づかいや、ゆっくりした抽象的な動きなど、予備知識なしでは難しく感じてしまうことも。
 そんなお能の世界の扉をぐぐっと開いてくれるのが「月イチ能楽講座」です。関西の若手能楽師のホープたちによる、軽妙なトークに迫力ある実演を交えての解説は「わかりやすい!」「楽しい!」と評判。今回も前回に引き続き、メンバーの大槻裕一さんに「能面」の魅力について教えてもらいます。



月イチ能楽講座
東京・大阪・京都で毎月開催、毎回お能の1つの曲(演目)を題材に、能楽師シテ方の大槻裕一(おおつき・ゆういち/写真中)、小鼓方(こつづみかた)の成田奏(なりた・そう/写真右)、大鼓(おおつづみ)方の河村凜太郎(かわむら・りんたろう/写真左)が、若いエネルギーとみなぎる情熱、関西ノリの話芸とキレのある技で、たっぷり解説。オモシロ企画満載のインスタグラムも必見。スマホアプリRadiotalkで聴ける「週イチラジオ」は日曜日18:30〜(予定)配信中。
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豊かな表現力と裏側の秘密

 能面の大きな特徴は、表情が固定されていないことです。たとえば、面をわずかに上へ向ける「照ル」、下へ向ける「曇ル」という所作があります。この所作により、光の当たり方や角度が微妙に変わり、同じ面が明るい表情に見えたり、悲しみをたたえているように見えたりするのです。


 わずかな傾きでも、喜びや悲しみなど、さまざまな感情を表現できるのが能面の魅力であり、面白さです。演者によるこうした能面の操作を「面づかい」と言います。シテ方にとって、面が生み出す表情を研究し、時には面に導かれながら役を深めていくことは、能を勤める大切な時間です。


 能面は、檜(ひのき)などの木材を削り出してつくられます。お能の舞台でお客様が目にする能面は、滑らかに整えられ、繊細な彩色が施されていますが、さて、その裏側はどうなっているでしょうか。裏側には、顔に接する部分が彫り込まれ、鑿跡(のみあと)が残っていたり、黒い漆が塗られていたりします。古い面では、作者の銘(めい)や焼印(やきいん)、作者の証となる「知らせ鉋(がんな)」と呼ばれる鑿跡などが、裏側に残されていることもあります。このように、裏側には能面のさまざまな情報が隠されていることがあります。


 裏側も目や鼻、口の形が整えられており、これらの部分には、視野や呼吸を確保するため小さな穴が開けられています。そして面の両耳上辺りには、面紐(めんひも)を通すための紐穴も設けられています。これらの穴は表側からは目立たないようになっていますが、裏から見るとよくわかります。

面を敬い、面に力を得る

 能楽師は面を丁重に扱い、日々の保管や持ち運びにも細心の注意を払います。普段は、布製の「当て」と呼ばれるクッションとともに、布製の「面袋(めんぶくろ)」に入れ、傷つけないよう丁寧に収納しています。当てや面袋は能面ごとにあり、多くの場合は装束の余り裂(ぎれ)で作られています。舞台の本番前、楽屋に能面を用意しておくときなどには、面袋を敷いた上に能面を置き、その上に当てを被せて、直接人目に触れないようにしたりもします。


 舞台へ持参するときには「面鞄(めんかばん)」という専用の鞄に入れて運びます。裕一さんの面鞄について、どんなものか教えていただけますか。できれば画像があるとありがたいです●●●●●●●●●●●●●

 とくに、古い面や家宝として受け継いできた面は、自分たちの手で持ち運ぶようにしています。地方公演で新幹線や飛行機を利用するときも、常に手元に置き、決して手放しません。面を守ることも、私たち能楽師の大切な務めなのです。


 面を掛ける前は、必ず能面に向かってを一礼するのが作法です。そして、両手で紐穴の部分をつまむようにして押し頂きます。面には事前に面紐を通しておきます。面紐は絹製の組紐(くみひも)で、どんな種類の面紐をどの曲(演目)に使用するかは、流儀や各家で約束事があります。観世(かんぜ)流の場合は、頭(かしら=かつら)の色に合わせて、黒か白(薄茶)の面紐を使用することがほとんどです。

 面紐を後ろで結んで頭に固定したら、視界や呼吸、面の角度を確かめます。能面は人の顔よりも小さくつくられているので、少し上の方に掛けて、演者自身の顎の辺りがはみ出すようにします。そうすることで、舞台上で演者の「面づかい」が効果的に映り、能楽ならではの不思議なリアル観が生まれます。


 ですから、自分の目の位置が必ずしも面の目の位置と合うわけではありません。実際には、面の鼻の部分にある穴から、わずかに視界を得られる程度です(なかには、鼻に穴のない能面もあります)。このように、能面を掛けると視野がかなり限られるため、舞台では身体の感覚や日頃の稽古の積み重ねが、いっそう重要になります。

 舞台に立つうえで、能面は演者に力を与えてくれるものです。それは「能面を掛けて役になりきる」という単純なことではありません。表現が難しいのですが、面の持つ力や面に対する畏れを自身の身体に通すことで、面=役の精神を身体に通わせて舞台に立つ、という感覚に近い気がします。だからこそ、舞台の上でも、日々の扱いにおいても、能面には常に敬意をもって接しなければなりません。先人たちが守り伝えてきた面を、今の私たちが大切に守り、次の世代へと受け継いでいく。それもまた、能楽師としての大切な務めだと考えています。


前回の記事は↓
https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100983
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