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皇室と文化―その2 文化財の筆頭は正倉院宝物

『皇室』バックナンバーより 第19回
令和8年5月22日
第18回に引き続き、皇室が保持・継承してきた伝統について紹介する。
(93号より)



馬術の伝統も受け継ぐ
 古式馬術の打毬(だきゅう)と母衣引(ほろひき)、鴨漁法、鵜飼(うかい)も皇室が保護する伝統文化に挙げられる。
古式馬術を伝承しているのは、皇室行事などに用いられる馬を扱う宮内庁主馬班(しゅめはん)である。
 打毬は馬術競技のポロとよく似た競技で、日本には8~9世紀頃に伝わった。奈良・平安時代には端午(たんご)の節会(せちえ)の際に行われる宮中の年中行事になるほど広がった。鎌倉時代に衰微するが、江戸時代に武芸として奨励されたことから復活した。明治以降は西洋馬術に圧倒され、打毬も洋鞍(ようぐら)を用いる現代式打毬に転化されたが、主馬班には江戸時代中期の打毬が保存されており、皇室行事の際などに披露されている。
 母衣引も江戸時代中期の馬術を伝えるものである。母衣は戦場で矢を防ぐための武具あるいはマントとして用いられたと考えられているが、江戸時代中期になると、戦がなくなったことから、様式美を伝える馬術となった。主馬班ではこの時代の母衣引を伝承している。

伝統は賓客接待の場に
 鴨漁法は、儀式を扱う宮内庁式部職(しきぶしょく)が守り伝えている。この技法は野生の鴨を無傷のまま捕獲するもので、江戸時代に将軍家や大名家に伝わっていた。明治以降は皇室が継承することとなり、現在も埼玉鴨場(埼玉県越谷市)と新浜(しんはま)鴨場(千葉県市川市)で技法が維持保存されている。鴨場は内外の賓客接遇の場として用いられているほか、地元住民の見学会が行われるなど自然保護観察の場としても貴重なものとなっている。
 鵜飼は全国各地で行われているが、岐阜県長良川では9人の鵜匠が宮内庁式部職として御料鵜飼を行い、古代療法として伝承されてきた鵜飼漁で獲れた鮎を皇室に納めている。
 皇室と鵜飼のゆかりは古く、律令時代、鵜飼人(うかいびと)が宮廷直属の官吏として漁をしていたという記録があるが、封建時代には諸大名が保護するようになっていた。長良川鵜飼も尾張徳川家の保護を受けていたが、明治維新とともに保護はなくなり、鵜飼は消滅の危機に瀕した。そこで明治23年、宮内省は鵜匠に宮内省職員の身分を与えるとともに、長良川に3か所の御料場(ごりょうば)を設置。引き続き御料鵜飼として鵜飼が続けられるようにしたのである。現在、鵜飼は外交団を接待する場としても用いられている。

皇室が守り伝えてきた文化財
 皇室が守り伝えてきた文化財の筆頭は、天平勝宝8歳(756年)、光明皇后が聖武天皇のご遺愛品などを東大寺に奉献されたことに始まる正倉院宝物である。宝物は東大寺の正倉に納められ、扉の開閉に天皇の許可を要する「勅封」(ちょくふう)とされた。
 正倉院宝物は朝廷の監督下で東大寺によって管理されてきたが、明治8年(1875)に国の管理下となった。現在は宮内庁正倉院事務所が管理しているが、世界的にも貴重な文化財が当時のまま伝わっているのは皇室のご存在あってのものだろう。なお、現在、宝庫は古来の正倉のほかに西宝庫、東宝庫があり、宝物はこの両宝庫に分納して保存されている。西宝庫は現在も開閉の際、天皇の使いである勅使(ちょくし)が参向する勅封庫である。
 京都御所内の東山御文庫(ごぶんこ)では、皇室に伝来した平安時代以降の典籍、記録や歴代天皇の宸翰(しんかん)、書画、道具など約6万点が収蔵されている。これらは皇位とともに伝えられる御物(ぎょぶつ)として現在も勅封とされており、宮内庁侍従職が管理している。
 京都御所内には御池庭(おいけにわ)御文庫もあり、法隆寺から献上された聖徳太子の肖像画や、歴代天皇が即位礼で着用した御礼服(ごらいふく)などが保存されている。



皇室ゆかりの名宝を国にご寄贈
 平成5年に皇居・東御苑に開館した宮内庁三の丸尚蔵館(現・皇居三の丸尚蔵館)では、昭和天皇崩御の際に上皇陛下と香淳皇后が国に寄贈された品々、皇族方のご遺品などを収蔵・展示している。その数は約9800点にのぼる。
 皇室の伝来品に加え、明治以降に献上された品やお買い上げ品もあることから、収蔵品は時代的にも地域的にも広がり、分野も絵画、彫刻、工芸など多岐にわたっている。一例を挙げれば、鎌倉時代の絵巻物「蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)」「春日権現験記絵(かすがごんげんげんきえ)」や、江戸時代の絵画「唐獅子図屏風」「動植綵絵(どうしょくさいえ)」(すべて国宝)など、作品の質は極めて高い。


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