読みもの

赤星たみこの八街やちまたオバンギャルド・ライフ

畳の意外な効用―その5「日本の家は自由だ!」
令和8年3月10日
畳の意外な効用―その5「日本の家は自由だ!」

 間取り図が描ける日本人、ということから始まったこの畳シリーズもいよいよ最終回。ずっと日本人と家との関連を私なりに考えてきました。建築家や住宅の研究者のように系統立てて深く考察したわけではありませんが、漫画家である私は部屋に人物を配置する絵を何千カット、いや何万カットも描いてきましたから、家のことを考えている時間の長さだけなら専門家にも負けないかもしれません。
 たとえば、人間を一人描いただけで、その身長から部屋の天井高を割り出したり、マンションなのか一戸建てなのか、築年数から昭和の流行り、平成の流行りを割り出したり…。とにかく、いろんなことを考えながら漫画を描いてきました。
 さて、そんな私の目から見た日本の住宅についてさらに考察を続けましょう。

 日本では家の間取りが17世紀くらいからほぼ一定になり、日本全国似たような家になりました。もちろん例外はたくさんあるでしょうし、南北に長い日本ですから地域による差も大きいと思います。でも、機能面はほとんど同じまま数百年が過ぎてきました。それは日本の家の決まり事が気候や生活にマッチしていて、変える必要がなかったせいだと思います。
 
 しかし、日本の社会は明治維新以後、大きく変わります。西洋化の波が押し寄せ、洋館も建てられました。しかしそれは富裕層に限られていて、憧れの対象となります。一般庶民は日本の気候風土にあった和風建築をずっと継承していくのですが、洋館はおしゃれ、洋館はお金持ちの住むところ、といった「西洋への憧れ」が日本人の心に根付いてしまったのはこのころではないかと私は思っています。当時の政府も「脱亜入欧」「西洋に追いつけ!」というスローガンを打ち立てていたくらいですから。
 誤解のないよう明記しておきますが、家のスタイルに和風がダサい、洋風がかっこいい、なんてことは一切無く、気候と自分の生活習慣に合っていればどちらでもいいのです。うっかり「和風より洋風のほうが何となくおしゃれ」と思ってしまう人には、「それは明治時代の社会情勢に押し付けられた感覚ですよ」と私は言いたいのです。

 ちょっと脱線してしまいましたが、家づくりの変遷を考えると、洋風建築がチラホラ出てきた明治・大正時代を経て、第二次世界大戦という大きな変革期がありました。戦後は焼け野原に急いで家を建てねばならず、品質二の次で粗製乱造という時代が来ます。
 やがて時代が落ち着いてくると、ていねいな和風建築も再開し、海外の建築スタイルを積極的に導入したり、住宅のパターンがものすごく変化しました。種類もスタイルも本当に様々。間取りも施主の好みを入れると、今までの日本建築にはないものも生まれてきます。外観からだけでは内側は想像がつきません。だからこそ、日本の住宅の広告には間取り図が必要になってきたのだと思います。 

 日本の住宅は、ものすごく自由です。個人住宅も集合住宅も、施主の好みが最優先されていると思います。住宅番組を見ていると、従来の北側のキッチンより南側の明るい場所にする施主もたくさんいます。冷蔵庫があれば南側でも問題ありません。
 それに加えて、建築スタイルも自由に選べます。日本風の在来工法もあれば2×4のカナディアン住宅、スウェーデン住宅、ログハウス、アメリカンハウスなどなど、海外の建築様式をすぐに取り入れる日本人の柔軟さ。昔のルールを守る必然性がなくなったからこそ、間取りが家ごとにガラリと違います。
 だからこそ、日本の住宅広告では間取り図の必要性が高いし、これからも間取り図はずっと広告に載り続けるでしょう。間取り図を日々目にしている日本人は、今後も間取り図を描ける能力をキープしていくと思います。
 この日本人の特殊能力、ぜひずっとキープしてもらいたいのですが、そのためには畳というフォーマットも必要です。畳のおかげで大きさと部屋の形が何となくわかるわけですから。

 ところが今は畳のない家が増えていると聞きます。畳の部屋より洋室(フローリング)のほうを好む人が多くなったのでしょうか? 
 税金はどうなっているのかと思い、調べてみました。すると意外なことに畳とフローリングとでは固定資産税も都市計画税も違っていました! しかも畳の部屋のほうがちょっとだけ高いのです。
 固定資産税と都市計画税の二つを合わせた金額が以下のサイトに載っていました(令和7年12月時点)。

 https://www.koteishisanzei-papatto.com/tatami-koteishisanzei-takai.html

 これによると一般的な畳だと1㎡あたりの固定資産税は55円程度、都市計画税が11円程度で、計66円。一般的なフローリングだと1㎡あたりの固定資産税は48円程度、都市計画税が1㎡あたり10円程度で、計58円(いずれも新築時)。
 ぜんぜん知りませんでした…。
 税金だけのせいだとは思いませんが、畳の部屋のない家ばかりが増えていくのは、とても残念な気がします。「畳敷きはダサい」なんて思わずに、和風の部屋のすっきりした部屋も素敵ですよ。和モダンとかアジアンテイストといった部屋作りもよくインテリア系のサイトに出てきますから、いろんな形で畳をずっと残してほしいな、と思っています。



 以上、連載第1回から5回まで、ある日、外国人には間取り図が描けないということに気づいてから、日本人と畳の深い関係、日本では必須なのに欧米では存在すら知られていない間取り図という存在の謎までを、赤星たみこの独断でお送りしました。
 次のシリーズもお楽しみに!

前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100759

●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。

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