読みもの
この連載では、千葉・八街に暮らす漫画家、赤星たみこさんが独断と偏見で日本文化を考察します! 赤星さんならではのユニークな視点に「目からうろこ」です。名前を知らない女性と話をするとき、相手をどう呼ぶか問題。最近私はこの問題にちょっと悩まされています(悩む、というほど大げさじゃないんですが…)。
実際は、「あの、すみません、スマホ落としましたよ」と、相手の性別や年齢など関係なく「すみません」が万能の呼びかけになると思います。
でもこの時、「すみません」ではなく「おばさん」と呼ばれたら、あなたはどういう反応をしますか?私はもうおばあちゃんと呼ばれてもいいくらいの年齢なので、逆に「おばさん」なら全然気にしません(そもそも40代くらいから気にしなくなっていましたが)。

おばさんを使わず、「すみません」と呼びかけたとしても、そのあと「あら、これは私のじゃないわ」「え、おばさんのじゃないんですか?」とか、会話が続いたらどうするのか。
相手が若い女性だったら「おねえさん」を使う、という人も多いと思います。「すみません、○○落としましたよ」「え、おねえさんのじゃないんですか?」という具合に、事が進むとどうしても相手に直接呼びかける言葉を使わざるを得ません。
こういう場合、「おねえさん」を嫌がる人はあまりいないようです。でも、「おばさん」とか「おかあさん」と呼ばれると、「私はそんなおばさんじゃない!」とか「あなたの母親じゃない!」と怒る人、けっこう多いみたいですね。
私自身の体験談ですが、50代半ばのころ「おかあさん」と呼ばれたことがありました。デザインフェスタで絵や小物を売っていた時の話です。大学生くらいの若いお客さんが私を見て「おかあさん、その着物、かっこいいですね」と言ってくれたのです。
そのとき私は、そうか、私にはもうおかあさんという呼称が使えるんだ、ちょっと新鮮!と思いました。もちろん「私はあなたの母親じゃない!」と怒る気には全くなりませんでした。おそらくこの子は私を「おばさん」と呼ぶのはちょっと気が引けたので、「おかあさん」と呼んだのでしょう。そう思うと、その子の気遣いすら感じて悪い気持ちはしませんでした。
ちなみにあ、かっこいいといわれた着物姿は、著者紹介のところにあるあの写真です。
黒い髑髏模様のスカーフを半襟にし、グリーンの帯揚げも実は同じ模様の色違いで、髑髏が入っています。帯は木綿で、骸骨が躍っている模様。通販で一目見てすぐ購入しました。帯締めは太いベルト。帯に根付代わりにつけた髑髏の小物は、同じデザフェスで買ったものです。根付として作られたわけではないので、なんと固めの結束バンドにつけて帯に差し込みました。
とまあ、こんなアバンギャルドな着付けをしたおばさんですから、私はこれをおバンギャルドな着付け、と呼んでいます。

話を元に戻すと、ではその子が「おばさんの着物かっこいいですね」と言ったとしたら、私はどう感じたでしょうか?
おばさんはただ単に、大人になった女性の、年齢的には40代以上を指す言葉だと私は思っています(人によっては「いや、50代以上です」「いや、30代からおばさんです」と言う人もいるでしょうが、私は体力的に40代くらいからさすがに若いころとは違うな…と思い始めたので、なんとなく40代以降にしています)。
当時、私は50代半ば過ぎ。私の基準から言っても全く問題のない「おばさん」世代。
だから、あの時の大学生が「おばさんの着物かっこいいですね」と言ったとしても私は何も思わなかったでしょう。だって、「おばさん」って私にとっては蔑称じゃないんですから。
おばさんと呼ばれようが、おかあさんと呼ばれようが、今の私は全然気にしない、というのが私の立ち位置です。
もちろん、気になる人もいるでしょうし、そもそも「おばさん=若くない女性」という意味だから失礼だ、という人もいるでしょう。
でも、それを失礼だと断罪してしまうと、それって「人は若いほうがいい」という考えにたどり着きませんか? 若さには価値があって年を取ることには価値がない、なんて思っていると、人生つらくないですか?
次回は、その辺をちょっと深掘りしてみようと思います。お楽しみに!
(次回更新:4月7日予定)
前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100760
●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。
