読みもの

第16回「ほこりまるけ」名古屋弁
かつての職場の同僚で名古屋に住んだことのある男性(関東出身と思われる)が、「かわいいと思う名古屋弁」に挙げていたのが「ほこりまるけ」だ。たしかに、ねちっこさが目立つ非モテ系(自虐)の名古屋弁には珍しく、ほんわかした語感が愛らしく、これはちょいモテるかも?
たとえば、「あんたのセーター、ほこりまるけだがね!」なんて使う。訳すと、「あなたのセーター、ほこりまみれじゃないの!」となる。つまり、「ほこりまるけ」とは「ほこりまみれ」のこと。全体にまぶしたようにほこりがついているって状態を想像してほしい。
ついよそで使ってしまい、「まるけ~?!」と大笑いされた記憶もある。笑っているほうは、バカにしているわけではなく、ユーモラスな語感につい笑ってしまうようで、こっちもちょっとうれしかった。なんだか、ほこりの妖精やら妖怪やらが、ひょっこり出てきたような雰囲気ではないか。というわけで、一番人気の名古屋弁ということにしておく。
ほこり以外にも、「泥まるけ」「砂まるけ」「粉まるけ」といったように、何かにまみれている状態を、名古屋弁で「〇〇まるけ」と表現する。しかるに、中華料理のメニューで見かける「蒸し鶏のネギまみれ」だって、名古屋では「蒸し鶏のネギまるけ」というべきなのだ(いわないけど)。
「まるけ」の「まる」は、「まるごと」「まるまる」「まるっと全部」などと同じ意味であることはすぐわかる。これに「け」がついていることで、「まるごと~だらけ」→「~まるけ」になったんじゃなかろうか、と勝手な考察をしていたのだが、意外なことも判明した。
接尾語の「~まみれ」は「まみれる」と動詞化するのに対して、「まるける」という言葉は名古屋で聞いたことがないので、「~まるけ」は動詞化しないと思っていた。ところが、ネットで調べてみると、どうやら三重や静岡などでは「まるける」という動詞を使うらしい。ただし、この動詞は「まるめる」の意味で、「~まるけ」とはちょっと違うような気がする。関係があるのかないのかは、いまだによくわからない。
(文/中尾千穂)
※ここでは名古屋弁としていますが、東海地方はじめ他地域でも同じ方言が使用されている可能性があります。
※前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100739