読みもの

和の響き――日本の音色に魅せられて

第2回 篳篥ー最終回
令和7年12月17日
11 桜と紅葉が散らされた蒔絵の管箱

「こんなに難しいのに、なんでやめなかったのかな」
 新屋さんに、雅楽に関わってきた45年間についても振り返っていただきました。



「篳篥を教わり始めた23歳の頃は、まさか今のようになるとは思っていませんでした(笑)。演奏するのも作るのも、知れば知るほど難しいと思うことが増えていったというのが正直なところですね」
 雅楽は合奏です。篳篥を教えてくださった師匠の薗先生は「三管が揃わないと雅楽じゃないよ」といつも口にされていたそうです。
「合奏というところが難しいんですよね。吹き始めた頃は『気持ちいいなあ』と思って吹いていたんですが、吹けるようになるにつれて『合奏』としての技術が求められるようになるんです」
 実は雅楽の演奏に指揮者はいません。曲の始まりや終わり、速度などを合図する役割を担う「鞨鼓」(かっこ)という楽器はありますが、奏者同士の阿吽の呼吸が重要です。お互いがお互いの音をよく聴き、ハーモニーを奏でていくのです。自分一人の演奏技術が上達するだけでは、いい演奏にはならないのです。
「こんなに難しいのに、なんでやめなかったのかな(笑)。ずっと続けていけばマスターできると思ったのかな。いや、やはり自分の思ったように吹けるのは楽しいし、その結果が合奏の出来につながると嬉しいから、それで45年も続いたんでしょうね、きっと」
 新屋さんのお話からは、篳篥の音色と演奏が好きだという純粋なお気持ちが伝わってきます。
 最後に、新屋さんは師匠の薗先生の奥様から譲られたという扇形の管箱(かんばこ/ケース)を大切そうに見せてくださいました。



 蒔絵で描かれた桜の花と紅葉が一面に散らさされた美しい管箱です。新屋さんは、薗先生亡き後も先生の教えを胸に、ずっと篳篥と共に歩んできたのだと思いました。


(完 取材 文/岡田尚子)

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