読みもの

和の響き――日本の音色に魅せられて

第2回 篳篥ーその10
令和7年12月10日
10 物悲しい旋律が日本人の心に響く

最後のパーツは「帽子」
 最後のパーツはリードに被せる「帽子」です。
 これは、吹いていない時にダブルリードの口が自然に開いてしまうのを抑えるためのもので、演奏時には外します。新屋さんは「帽子を作るのが一番面倒」と笑います。
「篳篥の音色に関係ないパーツですからね、作っていても楽しくないんですよ(笑)。」
 材料はヒノキやスギの木です。リードの幅に合わせて切った木片を手万力(てまんりき)の間に挟み、中をくり抜き、リードに被せられるように形を整えていきます。この作業も実演してくれましたが、実に細かい作業です。





 帽子の完成で、篳篥に必要なすべてのパーツが揃いました。本体の管以外に必要なパーツがあり、しかもそれらの小さなパーツが音色の決め手になるというのが篳篥という楽器の特徴なんですね。



 雅楽の音の高さは、西洋の音より少し低い
 取材の最後、新屋さんに改めて雅楽の魅力についてうかがいました。
「1000年以上も続いてきただけあって、非常に奥が深い音楽だと思います。戦乱などがあっても、昔の人がなんとか残そうとしてきただけのことはありますよね」
 事実、雅楽は応仁の乱や明治維新などで存続の危機に瀕した時も、織田信長や豊臣秀吉、明治政府が保護してきました。一般の人が雅楽に触れることができるようになったのは明治以降ですが、新屋さんは「一般の人にとって、雅楽は憧れだったかもしれませんね」と話します。
「僕が思うに、雅楽は日本人の感性に合った音楽だと思うんですよ。旋律もマイナーの曲調が多いし、西洋の音に比べて少しピッチ(高さ)が低いんです」
 雅楽の音の高さの基準は昭和48年に、A(ラ)=430ヘルツと定められました。洋楽のAは440ヘルツなので、少し低いわけです。
「この、洋楽に比べて少し低い音でマイナーの旋律を奏でるところが物悲しいというか哀切な響きとして日本人の心に響くんじゃないでしょうか」
 篳篥を作る人や雅楽愛好団体が増えていることからも、雅楽が人々の間に再び根付き始めていることがわかります。
「僕が篳篥を始めた頃は演奏できる人が少なかったから、ちょっと吹けると『すごい、すごい』『先生、先生』って言われたものですが(笑)、今はみんな耳が肥えてきたから、下手な演奏をすると、遠慮なく『下手だな』と言われる。昔に比べると、雅楽はずいぶん広まってきたと思いますよ」
 実際、令和6年10月14日、乃木神社で行われた雅楽道友会第50回管絃祭はあっという間に用意された席が埋まり、立ち見でご覧になっていた方もたくさんいました。お年を召した方よりも若い方々のほうが多かったのも印象的でした。





(次回更新:12月17日掲載予定 取材・文/岡田尚子)

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