読みもの

連載 方言「知らんけどね」

第23回「ちかがつれ」熊本弁
令和8年3月26日



第23回「ちかがつれ」熊本弁
 前回のこのコーナーで、熊本では「しょっぱい」とは言わず、それはほとんど「辛い」と表現すると書いたが、このような味覚にまつわる方言は多い。
 例えば、食べ過ぎて胸焼けする感じは「どかっときた」だ。その語感から、あまりにも多くを食べて胃が急に重くなる感じがするだろう。
「餅ば食い過ぎて、どかっときた」(餅を食べ過ぎて、胸焼けがする)などと言う。
 あるいは、味がくどすぎて胸焼けしそうな感じは「どげだっか」だ。毒々しい感じから来たものかは分からないが、口に出してみると言い得て妙な感じの言葉だろう。
「あのラーメンはどげだっかもんね」(あのラーメンはくどいものね)などと使うのだ。
 一方、腹が減りすぎて倒れそうな時に使う言葉がある。それが「ちかがつれ」だ。
 おそらく「力がかつれる」「力が枯れる」ところから来ている言葉だと思われ、そう分析していくと、なかなか余韻がある言葉にも思えてくる。
「もう朝からなんも食べとらんけん、ちかがつれしよっごたっとたい」(朝から何も食べてなくて、腹が減って仕方がなくて倒れ込みそうな感じがするんだよ、本当に)
「ちかがつれ」の言葉自体に余韻があっても、こうして熊本弁にしてしまうとおちゃらけた感じになってしまうのはご愛敬だ。
 おちゃらけた感じというと、熊本弁の「合いの手」がそうだ。それは「そら、どうし」という言葉で、驚きの感情も伴って以下のように使う。
「あの店のラーメンはどげだっかよ」(あの店のラーメンはくどかったよ)
「そら、どうし」(ああ、そう! 良くなかったね)
 また、「どうしても」という言葉に対応するのが「しゃんもんでん」だ。どこか「おてもやん」に対応するような、これもおちゃらけた言葉である。今まで触れてきた「どかっときた」「ちかがつれ」も交えながらその用法を見てみよう。
「ばってん、ちかがつれしよっごたったもん。しゃんもんでんラーメンば食おごったったけん、最後まで食うたらどかっときた」(でも、腹が減って仕方がなかったんだよね。どうしても食べたかったから、最後まで食べたら胸焼けがしたんだ)
「そら、どうし」(それは、大変だったね)
 熊本以外の人が聞いたら、きっと、ちんぷんかんぷんだろう。そして、この「そら、どうし」は、その時々の感情によって言い方のイントネーションや強弱が変わってくる。まさに「そら、どうし」(ああ、そうだよね)なのである。
文/伊豆野 誠
前回は https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100845
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