読みもの

和の響き――日本の音色に魅せられて

第1回 龍笛――その10
令和7年9月24日
10 藤脇さんの理想の音

誰もがいい笛と出合わなくちゃいけない
 この18年間で新管依頼や修理依頼はどんどん増えていきました。
現在、藤脇さんには「龍笛が鳴るための仕組みを理解している、または理解しようとしている人間は多くはいない」という見解があります。私も完全には理解できていません。ただ楽器の鳴る仕組みを知った以上、たまたまいい笛に出合っていい音で吹いている人もいれば、鳴らない楽器に当たってしまって苦労している人もいる――そういう状況を変えていきたいと話します。
「たまたま鳴る笛と出合えたなんてくじ引きみたいなこと言ってないで、みんな鳴る笛と出合わなくちゃいけないと思うんですよね。『出合い』や『縁』なんていう言葉で解決してはならないと思うわけです。鳴る笛に出合えば演奏技術も向上しますしね」

雅楽道友会の公演にて。装束姿で龍笛を演奏する藤脇氏(鈴木敏也氏撮影)


 現在、藤脇さんの理念を共有している笛製作者は数名ほどだと言います。その1人は三重県松坂氏に道堂雅楽器工房の殿村弥道(ひろみち)さんです。
「殿村さんは僕よりずっと年上の方でキャリアも長いので、彼が僕に何かを尋ねるなんてことはないんですけど、僕はいろいろと相談に乗ってもらっています」
笛作りにゴールはありません。藤脇さんが自分用に5年前に作った笛と最近作った笛を吹き比べると、やはり音色に違いがあると言います。
「笛製作者として今も少しずつ進化していると思います。」

さまざまな倍音がきれいに響く音色を目指して
 龍笛は先にも書いたように、天と地の間を飛翔する龍の鳴き声にたとえられ、ダイナミックで迫力のある音色が魅力となっています。同じ指使いをしても口の形や吹き入れるスピードによってさまざまな倍音が響くのも特徴です。頭部に入っている鉛の錘のおかげで音量も豊かです。
 内径を微調整する過程のところでオクターブ違いの音である「和」(ふくら)と「責」(せめ)のことを説明しましたが、龍笛はオクターブ音だけではなく、多様な倍音を響かせる楽器です。
「僕が作りたいのは、オクターブのしっかり取れた笛です。ただ、最近は好まれる音色が伝統的なものとは違ってきました。昭和初期は息をたくさん入れて荒々しい音で吹いていたようです。それが最近は洋楽器と一緒に演奏することもあるせいか、フルートのような音色が好まれていると感じます。オクターブ音をはじめ倍音の少ない澄んだ響きですね」
 龍笛は伝統楽器ではありますが、好まれる音や響きも時代によって変わっていくのですね。今も生きている楽器という感じがして、いいですよね。
(次回:10月1日掲載予定 取材・文/岡田尚子)

その9(前回) https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100651
その8 https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100650
その7 https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100649
その6 https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100648
その5 https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100638
その4 https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100637
その3 https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100636
その2 https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100635
その1 https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100627
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